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第1話

「冗談じゃねぇ……」 俺は隊列の中で一人ごちた。 何かを口にしたのは俺だけではなかったようで、あちこちにざわめきが広がる。 ここは王国軍の修練場。 視察に来た第三王子、アット=ヨーハン・テングストレームの前に隊列を組み、整列した。 そして、今、俺の所属する第三軍隊は、衝撃の軍命を言い渡された所だ。 「静まれ!!」 ピタリと場を静めた王子は、こう続けた。 「今回往くのは、未踏破の迷宮! その入り口は、光と闇の力を同時に扉に与えなくてはならぬ」 光輝く金の髪と青い眼を持つ、美しい王子が辺りを見渡す。 「知っての通り、私は当代随一の光の使い手。それに対する闇の使い手といえば、『凶王』を於いて他にない」 目を閉じ、諭すように話す王子は、神聖ささえ纏っていた。 「さらには、彼の力を利用して、最深部に至った際には、あの闇そのものである、禍々しき『凶王』を、置き去り、封じ込め、二度と日の元に現れぬようにもできよう!」 おおおッと歓声が上がる。 本当、冗談じゃない。 つまり、この王子サマは、俺達第三軍隊を、まだ一度も探索されていない危険な迷宮に連れていき、自分の名声を上げる手伝いをしろと、言っているのだ。 しかも、『凶王』を連れて。 『凶王』というのは、数百年前から生きるという、魔力の化け物だ。 非常に醜い姿をしているが、一応人であるらしく、人語を解するという。話が通じるという意味ではないそうだが。 光に属する魔法以外の、あらゆる魔法を扱うことができる『厄災』だ。が、『闇』の魔力しか持たないため、強い光の魔力で作られた結界の中では力が使えず、数代前の王に従属を誓わされ、飼い殺しにされている。 今回、王子が言っているのは、その数代前の王にもできなかった、『凶王』を倒すという偉業を成し遂げてやろうという話だったのだ。 しかし、それを実行するのは、俺達第三軍隊である。 いや、最終的にとどめを刺すのは、王子だろう。 だが、その舞台を血泥にまみれて作り出すのは、俺達だ。 俺達が、選ばれてしまった。最悪だ。 「カール、わりぃ。今日の酒はパスだ」 「あぁ、無事に帰ってから呑もうぜ」 同じ第三軍隊の別分隊に属する、悪友(カール)と軽口を交わすが、気分が重い。 明後日出発という強行な日程で、これは行われるそうだ。 ホント、気が重い。

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