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第1話
放課後、図書室への廊下を急ぎ足で向かう男子生徒。
廊下は走らない!!と途中に貼り紙があった。だから、急ぎ足なのだけど。
急いで図書室へいくのには理由があった。
息を少し切らして図書室へとたどり着く。
乱れた制服を直し、図書室のドアを静かに開ける。
どこにでもあるような造りの図書室には生徒が数人いて、大きなテーブルを囲むように置かれている椅子に座り真剣に本を読む男子生徒がいた。
その生徒を直ぐに見つけたら、胸がドキドキ高鳴る。
「神林、中庭の掃除当番じゃない?もう終ったのか?」
ドアの直ぐ側に立っていた彼に友達が声をかけてきた。
彼は神林亨。中学2年。
「うん、終ったよ」
トオルはそう返し、本を読む彼を気にしながら受付のテーブルにつく。
トオルは図書係。
声をかけてきたのは同じ係で、同じクラスの生徒。
小声で雑談をしながらでも、本を読む彼が気になる。
彼は4月に入学してきた1学年下の生徒で名前は西島千尋。
本を良く借りにくるので直ぐに覚えた。
放課後の1時間くらい本を読み、途中なら借りて行くのだ。
その時に名前を記入するから覚えた。
そして、彼が入学してきた時にクラスの女子がカッコイイと騒いでいた。
可愛い顔。いいや、綺麗で整った顔にトオルより背が高い。
初めて彼を見かけたのはこの図書室。
いま居る席に座り、本を読む横顔に見とれた。
ほんの1時間だけ会えるこの時間がいつの間にか楽しみになっていた。
話してみたいな。
でも、声をかけるキッカケがない。
せめて、同じ部活とかだったら……けれど、彼はどうやら部活はしていないようだ。
だから図書室に居るんだろうけど。
そんな悶々とした日々が2ヶ月続く事になる。
◆◆◆◆◆
放課後の1時間なんてあっという間に過ぎていく。
話すキッカケなんて、そこら中に落ちているはずなのにトオルにはそれができない。
本好きなの?とか、どんな本が好きなの?とか……色々あるはずなのに。
自分のばか………なんて落ち込んで1日が終わる。
そんなある日の朝。
「お兄ちゃんごめんなさい」
わんわん泣く弟がトオルの目の前で謝っている。
理由は、トオルがかけているメガネを踏んで壊してしまったのだ。
トオルはメガネ男子。
ないと見えないというわけではないがボヤケてしまうので困る。乱視が入っているので特に黒板の文字はダブって見えるのだ。
泣いている弟を責めるわけにもいかない。なんせ、ワザとじゃない。
「もう、いいから泣くな」
弟の頭を撫でる。
母親にメガネが壊れた事を言うと、夕方一緒に買いにいこうと言われた。
なので、今日1日はメガネ無しで授業を受けなければいけない。
それと………今日はあまりハッキリ見えないだろうなあ……と、彼が見れない寂しさが授業よりもショックだ。
◆◆◆◆
授業はそこまで大変ではなかった。
ノートを友達がコピーしてくれるって言ってくれたから、メガネ作り直したら移さなきゃなとトオルは友達に感謝。
そして、放課後。
受付から彼の姿はボンヤリだった。
あ~~、くそ!!俺の楽しみが!!
しかも、明日は金曜日だから彼は来ない。
月曜から木曜日までの楽しみ。
チェッ、と舌打ちしたくなる。
ボンヤリした風景の中の彼を見ていたら立ち上がった。
ああ、もうそんな時間?
時間って本当に早いなあ。なんて考えてると、彼がこちらへ本を持って歩いてくる。
あ、読み終えれなかったのかな?
近付いてくる彼にドキドキして、つい、俯く。
「あの~、メガネ、今日はしてないんですね」
はい?
一瞬何が起こっているか分からなかった。
いつもなら、この本をお願いします。って言葉だけで、その後は業務的なやり取りで終わってたのに……それ以外の言葉をきけた!!
トオルは顔をあげて彼をみた。
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