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再会 #1 side Y
「いやぁ~やっとここまで来ましたね!!」
「そうだね...でも、まだまだこれからだよ。」
「そうだな。油断は禁物だ。やっと道が開けたってとこだもんな。」
「あぁ。」
「この企画、三人で絶対成功させましょうね!!」
出張先の地方都市の何の変哲もないスクランブル交差点で、俺は同期の斎藤と後輩の石橋と三人で、軌道に乗りかけた仕事の成功を喜んでいた。何気に視線を移した交差点の向かい側。そこにいたのは信号が切り替わるのを待つたくさんの人々...その中で佇む一人の男性を見付けた時...
ガタン.....
ずっと何かを封印していた箍が外れる様な音がして....
ゴロン.....
運命が回りだす音が聴こえた。
信号が青に変わり、信号待ちの人々が一斉に歩き出す。隣で同僚の二人は、これから上げるであろう小さな祝杯の相談をしていた。その時の俺には、二人の声がぼんやりとしか聞えなかった。なぜなら、それは、視線の先を歩く、一人の男性から目が離せないから...その男性とすれ違った時、それまで漠然としていた『もしかしたら...』という思考が、『間違いない』という確信へと変化した。
「悪い...俺、用事を思い出した...二人で飲みに行って!」
俺は、ほぼ無意識に二人にそう告げていた。
「海野さん?」
「おい!葉祐!どうしたんだよ?」
「ホント悪い!!急用なんだ。用事が済んだらホテルに直接戻るよ。」
茫然とする二人を置いて、俺はその男性を追いかけた。見失わないよう...人の波にもまれながら、なんとか男性に近づいた時、俺は咄嗟に、彼の左手首を掴んだ。
「えっ?」
男性が振り返った。驚きを隠せない...そんな表情ではあったが、昔と変わらないアンバー色の美しい瞳がそこにはあった。
「あっ...すみません.....突然....」
支離滅裂の日本語を言ったあと、俺は続けて言う。
「あの.....間違ってたらごめんなさい...冬真(とうま)君...だよね?」
俺の言葉を聞いたその人は、瞳を更に見開き、そして、俺をじっと見つめていた。その瞳が驚愕から物憂げで儚げなものに変わった時、
「葉祐(ようすけ)くん.....?」
男性は俺の名前を呼んだ。俺は大きく頷いた。
青信号が点滅し始めた。俺は男性、否、冬真君の手を引いたまま、一番近い歩道を目指し、足早に歩みを進めた。振り返れば、冬真君の息が少し上がっていた。
「あっ.....ごめん....苦しかった?大丈夫?」
「大丈夫.....それより...手.....」
冬真君はちらっと、俺に掴まれたままの自分の左手首に視線を送った。
「あっ.....ごめん...」
俺が謝ると、冬真君はクスリと笑った。
「へっ?」
「葉祐君.....さっきから謝ってばかり。謝らなくちゃいけないのは.....俺の方なのに.....」
冬真君は俯いてそう言った。
「もしかして.....15年前のこと?」
「あぁ。」
「もう.....いいんだ.....昔のことだよ...」
「うん.....ありがとう.....」
冬真君は寂しげに礼を述べた。
「でもさ..俺...冬真君の夢....叶えるって約束...忘れたことないから.....今まで一度も忘れたことないから.....」
俺の言葉に冬真君は、少しだけ肩を震わせた。そして、
「もう...いいよ...それこそ昔の話だよ...もう...忘れて.....」
更に寂しげにそう言った。
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