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20years after #1 side S ~Shinsuke Satonaka~

部屋に入ると、僕の美しい父親がベッドに横たわっていた。 「父さん?」 「ああ。真(しん)くん...」 「どう?調子は?」 「うん。大丈夫...ごめんね...授賞式までには...元気になるから...」 「もう...僕の美人な方のお父さんは本当に真面目だね。そんなの気にしなくて良いよ。元々、無理にお願いして上京してもらってるんだもん。でも、声も言葉もスムーズだから快方に向かってるね。きっと。どれどれ...」 僕の額と父の額を合わせる。 「うん。熱は下がったみたい。...ってこんなところ葉祐に見られたら瞬殺だね、僕。」 「何言ってるの...?同じ顔して...」 父さんは幸せそうに小さく笑った。僕の美人な方の父、里中冬真は生物学上の父親ではない。生物学上の父親は里中葉祐。同性婚が合法化され、葉祐の配偶者となったのが冬真。それから数年経って、子供を持つ選択権が法の下広がった翌年、生まれたのが二人の長男に当たる僕、里中真祐(さとなかしんすけ)、18歳。初めて書いた小説が文学賞を受賞し、数時間後、授賞式がこのホテルで行われる。 「さっ、ご飯食べようか?」 コンビニで買ってきたおむすびを一つ手に取った。まだそんなに食欲はないだろうからと、二人で半分ずつにしようとおむすびを二つに割った。しかし、均等に分けたつもりが、具の鮭の切り身が一方に寄ってしまうという変な分け方になってしまった。 「あ...」 父さんは再びクスクスと笑った。今度も幸せそうに...そして、どこか懐かしそうに... 「やっぱり...親子だね...」 「えっ?何で?」 「ううん...秘密。」 「ちぇっ。」 「嘘だよ。ちゃんと教えてあげる。ただね...僕の人生はやっぱり...葉祐と出逢って...あの交差点で腕を掴まれた時から...葉祐は僕を絶望の淵から引き上げてくれたんだなって。君が生まれて...その十三年後、弟の冬葉(ふゆは)が生まれて...それまで縁遠かった家族も出来た。もしかしたら君には...ツラい思いをたくさんさせてしまったのかもしれない。でも僕は...君達に出逢えて本当に本当に幸せなんだ...」 父さんはそう言って僕を見詰めた。琥珀色の瞳が少し潤んでいて、とても綺麗だった。そして、僕は思う。我が親ながらこの人はやっぱり美しい。 「ねえ、父さん。」 「うん?」 「父さんと葉祐の馴れ初めなんて聞いても良い?」 「えっ?」 「恥ずかしいかもしれないけどさ、知りたいんだ。二人のこと。どんな風に出逢って、どんな風にその愛情に気付いたのか。僕と冬葉のルーツだから...」 それから父さんは深呼吸をひとつして、最愛の夫、葉祐との馴れ初めを語りだした。 懐かしそうに 恥ずかしそうに 幸せそうに 父さんの話を聞いていて、この二人の愛の物語を書くのも悪くないかな...なんて僕は考え始めている。 そう...タイトルは...『Evergreen』。

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