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4.First job(初仕事)

それから一時間後、車は郊外にある丘の上に停車した。周りに民家はなく小さな工場が立ち並んでいる。丘の頂上には既に廃れた工場があり、建物を多い隠すように背の高い木々がまるで林のように連なって茂っていた。ここが指定場所である。 廃工場の淡いブルーの外観は所々塗装が剥がれ、屋根は落ち、足元のコンクリートは長い年月雨ざらしにされその形を失うほどに雑草が生い茂っている。 朽ちた入口から白島とテルは少々カビ臭い建物の中へ入った。 少し進むと暗い部屋の真ん中に一人の中年男が箱を抱えて立っている。 クライアントの使いっ走りだろう。男は二人の姿を見て安堵の息をつく。 「ああ良かった。時間ぴったりだ…あなた方が運び屋ですね?これをお願いします」 「ああ」 差し出された箱は直径30センチ程の黒い箱で、受け取ると想像よりもずっしりと重い。 「これを例の場所まで届けてください。中は割れ物ですので、慎重にお願いしますよ」 「了解」 無事に白島の手に渡った瞬間、何者かが周囲の雑草を踏み歩く音がした。 一同は咄嗟に警戒する。 外はまだ暗く夜明け前で少々明るくなっているが人影を確認することは出来ない。 天井から空気の抜ける音と同時にカランと音が響いてスプレー缶が転がってきた。 途端に白い煙を噴き出し始める。 「吸うな!催眠ガスだ!」 「ひいいい!」 中年男は一目散に反対方向へ逃げ去って行き、白島とテルは息を止めながら外へ出た。 工場の中庭へ出た二人の前で黒い残像が横切る。 黒い影は周囲の林の中や建物の裏から次々に現れ二人を囲うよう立ちはだかる。マスクをした全身黒づくめの男達は各々武器を取り出し箱を持つ白島の方へ襲いかかった。 「出たな強奪屋…」 運び屋をしていれば高確率で遭遇するのが、彼らのような強奪屋である。 強奪屋とは、名の通り既に他の商売敵に依頼された品を横取りする連中の事である。雇われる目的は様々だが、大方は運ばれて都合の悪いものを阻止するのが狙いだ。 白島は箱を小脇に抱え、鞘に収まったままの日本刀を握り構える。 敵は総勢八人程だ。 一人なら戦いながら逃げ切る事も可能だが、なにせ今日は子供が一人いる。元殺し屋らしいが、能力は未知数だ。 「おい、大丈夫か」 「……」 テルは白島の心配をよそに前へ出ると両腕を広げポンチョの中から二丁のピストルを取り出した。どうやら杞憂だったようだ。 彼は目にも留まらぬ速さで一気に敵陣へ駆け込むと空気の弾ける音を響かせる。顎から弾を食らった敵は呻く間も無く膝から崩れ落ちた。 その身体を土台に踏みつけ宙へ高く飛ぶと上空から強奪屋面々の頭目掛けて 散弾し始める。 子どもゆえの身軽な体術に見とれていたが、敵も同じく銃を取り出し白島とテル目掛けて応戦し始めた。 鞘で弾を払いながら白島は乗ってきたセダンを止めている林の中へ走る。 「気味悪ィガキだぜ、まったく…!」 一方のテルは敵の身体に容赦なく穴をあけていく。 鞘を抜かず峰打ちで輩を倒す白島とは違い、確実に射止めるテルの手捌きは迷いがない。流石、元殺し屋といったところだろう。 隙を見て一人の敵が白島の持つ箱に銃を向けた。 箱は己の命よりも優先して護らなければならないもの。 運び屋はいち早く反応し、箱を庇うように持ち替えた。と同時に敵の背後から小さな漆黒の影が迫り飛び上がる。二つの銃口が男の左右のこめかみを捉えた。 重なり合った銃声が林間を轟き、眠っていた野鳥が一斉に羽音を立てていく。 頭蓋骨から血を噴き出し地に伏せた敵がどうやら最後の一人だったようだ。 再び静寂を取り戻した工場は不気味に赤く光る朝日を反射し地面へ横たわる死体に降り注ぐ。 「殺ったのか…全員」 「ああ」

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