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3.TELL(テル)
「…ったく、なんでこーなるんだか」
ベルトに差していた日本刀を外し、黒のセダンに乗り込む。それを脚の間に挟み運転席に座るのが白島のいつものスタイルだ。助手席にはいつもとは違う人物が乗っている。
桜野が凄腕、と言っていたがこんな小さな身体で何ができると言うのだろうかと、横目に様子を窺う。当の問題児は、ぼうっとフロントガラスを見つめたまま微動打にしない。
白島は込み上げてくる不安と苛立ちを誤魔化そうと胸ポケットから煙草を一本咥える。子どもの前では吸わないようにしているが、少年は自称21歳だというので構わないだろう。
窓を全開し煙が充満しないように逃がす。先程桜野から貰った封筒を乱雑に破り手紙を取り出した。中には活字で仕事内容と行動ルート、タイムリミットが簡単に書かれていて、それを遂行するのが運び屋の仕事だ。決して痕跡を残してはならない。
一読すると隣へ手渡してみる。小さな手が受け取った。文字を読んでいる様子をこっそりと盗み見る。
「…読んだか?」
こくりと頷く動作。本当に頭に入ってんだろうな、と内心でごちながら手紙を封筒に戻しライターで火を付けた。瞬く間にメラメラと炎があがり手紙が焦げていく。燃え盛るそれを窓の外へと翳し、手に燃え移る前に紙を離すと粉々になった灰が風に乗って跡形も無く消え去った。
深夜の空いた道路を走りながら、前を向いたまま一先ず今日のパートナーになった少年に話しかけた。
「お前、名前は?」
「…テル」
「前は……なんの仕事してたんだ」
「殺し屋」
「マジかよ…」
殺し屋と言えば、常に危険が伴う為にこの社会ではかなり腕の立つ輩が生業としている仕事だ。そのような大層な仕事をしていたと、全く感情の読み取れない少年の声色が言うのだから可笑しい。
「殺し屋から運び屋に転職?見た目もそうだが行き先不安だなぁ……」
「……」
「そもそも何でそんなに見た目が幼いんだよ」
「………」
「オイ」
「…それは、言えない」
出会って間もない間柄、都合の悪い事情から個人的な話をしたがらないのは珍しくない。
「口止めされてんのか?」
「…そうじゃない」
(喋る義理がねえ、か。)
「別に今更何を言われようと驚かねえけどな……」
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