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暗闇通信

 午前二時、林は夜の深まりが強い時間に頭を抱えてベッドに蹲る。辛くてしかたがないのだ。  過去の記憶が次々と頭のなかに溢れてくる。どの記憶も私にとっては辛いものだった。 「う…ぐっ…っはぁはっ…」    辛い感情と共に声を唸り、一人で闘う。暗い部屋の中で溢れ出るものを抑え込む。自分以外の人間は今頃寝ているんだろうと自分の不甲斐なさに挫かれる。  暗い景色から一点光が現れた。 [通知:阿部さん:夜分遅くにごめ…]  画面に彼のメッセージが映っていた。私は息切れしながら手を伸ばてアプリを開いた。  視界はいつも通りなのだが、集中できる範囲が狭く文字を一文字一文字辿って文章を理解していく。 阿部[夜分遅くにごめん。またどこか誘おうと思ったんだけどこの間釣りに行った時に林くんの趣味とか聞いてなくて。何が好きかな。時間があったら連絡ください。]  先程送信されたメッセージに既読がつき、気づかれたと思った。  返すにしても私には趣味も無い。いや、何も無いつまらない人間に最近なったんだ。 「返す言葉もない…」  脱力するようにため息をついて私は天井を向いてスマホの画面を切った。するとまた横目に光が現れ、 [通知:阿部さん大丈夫だから]  気になり、また画面を見てしまう。そこにはたった六文字だが私の感情を少し動かした。多くの感情が交差する心の中で、この言葉に気を引かれてしまう。  ーもしかしたら彼は全てお見通しなんじゃないかー  初めて話をした時も、私の状態を見透かしていた。  今日もまた。   (全部知っているから。だから誘ったんだろう。あれはただの誘いじゃなくて、私のために。)  今まで苦しんでいたのに彼の行動について考える自分がいた。  スマホで再度アプリを開き、返信をする。 [林:特に趣味はないですが、またどこか行きましょう。]    すぐに既読がつき、瞬く間に返信がくる。 [阿部:分かった。あと、辛いことがあったらいつでも言って。協力できる事があれば何でもする。]  心行きは嬉しいのだが、私は彼の事を察してもまだ迷惑をかけたくないという人付き合いの気持ちが多かった。  私はすぐに断りの返事を送ろうと思い、メッセージをトークに打ち込む。その間に返事がきてしまう。 [阿部:俺の家に来ない?こう見えて料理は得意だから!]  急な自宅の誘いに驚く。私は慌てて考えごとをした。  確かに彼の生活は気になる。すごく優しい人柄なので、普段どんな過ごし方をしているのか考えたこともあった。  待ち合わせ場所を知らされ、来れなければ来なくていいと一方的に進められてしまう。少々気が動転するのだが、来れなければ来なくていいので私には選択肢がある。意に沿うことはできるだろうか。

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