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第30話
景に言われた通り、わざとらし過ぎるくらいに体調の悪い振りをしながら翔平に電話をした。
午前中に会った時にはピンピンしてたから、相当怪しまれたけどなんとか乗り切った。
大学の門を出るまで半信半疑だったけど、景は本当に来ていた。
出てすぐ向かいの道の端に路駐していると言われたので見渡すと、そんな車は一台しか無かったからすぐに分かった。
車はやっぱり黒のロードスターか?と思ってたけど、よく街中で見る極普通の乗用車だった。
景は俺の姿に気付いて、小さく手を振って窓を開けた。
「どうぞ。乗って」
「うん、ありがと!」
景はサングラスを掛けていたけど、その奥にある大きな瞳がうっすらと見えて、やっぱりドキッとした。
今朝のアホな夢を彷彿とさせた。
大きくて少し焦げ茶がかったようなその瞳を、俺に向けてくれている。
(あぁー、やっぱり生で見ると格好良さ倍増や……)
景に促されて反対側に回り、助手席に乗り込んだ。
「翔平、大丈夫だった?」
「いや、めっちゃ疑ってたで? でも景の言う通りに演技してなんとか納得してもらったんよ。もう、めっちゃ恥ずかしかったで!」
大根すぎる自分の演技に笑ってしまいそうだったけどなんとか堪えた。
俺には俳優になれる素質はないなと改めて思った。
「あはは。そっか、ありがとう。だって、あんな理由でバイト代わってあげるなんて修介もお人好し過ぎるよ」
「いやー、翔平に頭下げられてしもうたし……」
景に会えたのは翔平のお陰だから代わってあげた、なんて恥ずかしいから言わない。
ふと車内を見渡すと、ホコリ一つ落ちていないしピカピカだから新車かと思ったけど、もうすぐ二年経つと聞いて驚いた。
忙しくしてるのに、こうやって掃除が行き届いているのを見ると、景はきっと綺麗好きなんだろうなと予想がついた。
「いつも自分で運転して仕事場とか行っとるん?」
「いや、いつもならマネージャーが車出してくれるけど、今日は知ってる場所だったから自分からお願いして。たまには運転しないと訛っちゃうしね」
「そっか。でも大丈夫なん?こんな明るいうちから映画なんか観に行って、周りにバレたりしない?」
「大丈夫だよ。これから行くところ、中学の頃よく行ってて。辺鄙な場所にあるからそんなに人も多くないし。ちょっと時間ズラして入ればバレないよ。ちゃんと変装もしていくし」
バレてもどうにかなるよ、と笑って俺の家がある方とは反対方向に車を走らせた。
中学の頃景が行っていた映画館に俺を連れて行ってくれるんだ... と感動してしまうのと同時に、運転している景がなんだか新鮮で嬉しくて、驚きに近いほどの喜びが沸き上がった。
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