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第31話
しばらく無言で運転していた景だけど、俺の膝の上に乗せている透明なキャリングケースをチラリと見て、また視線を前に移した。
「大学、楽しい?」
景の微笑む横顔を見ると、鼻が高くすっと伸びていて形が良いのが一目瞭然だった。
「うん、めっちゃ楽しいで。俺あんま頭良くないから、授業についていけなかったりする事もあんねんけど……こんな俺に勉強教えてくれたり、一緒に笑ってくれる友達も出来て、この大学来て良かったなぁと思う!」
「そうなんだ。修介は偉いね。ちゃんと自分の力でここまで来たんだから。友達もそんな修介が好きなんだろうね」
自分の力で、って、俺は何もしていないけれど、景に褒められた!って少し舞い上がった。
「友達とは普段から遊んだりするの?」
「うん。カラオケ行ったり、飲んだり。この間家に泊まりに来たんやけど、飲み過ぎて朝起きれんくて、みんなで一限サボったんよ」
「なんだかいいね、そういうの。青春って感じで憧れる」
「景も今度来ればええやん! みんな景に会いたい言うてたで?……あ」
なんとなくノリで言ってしまったけど、景は友達を作るのが怖いって言っていたし、勝手にいろんな友達呼んで会わせたりするのはいい気分じゃ無いんだったと思い出して、慌てて言い直した。
「ううん、何でもない……」
俺は視線を外して下を向いた。
景はそんな俺を横目で見た後、俺の考えてる事を感じ取ったのか、間を空けてからフフッと笑った。
「会ってみたいよ。修介の友達なら」
――世の中の人は、藤澤 景の事をどれだけ理解しているだろうか。
きっとその容姿から、物事に動じず沈着冷静で怖そうって思っているんだろう。
景に会って話す前までそういう気持ちを抱いていた俺のように。
みんなに教えてあげたい。声を大にして。
藤澤 景はこんなにも優しく笑って、稲穂のように柔らかい心の持ち主なのだと。
「……じゃあ、今度な」
「うん。楽しみにしてる」
俺は窓の外の景色を目で追った。
道路脇に埋まるイチョウ並木の黄葉が綺麗だった。
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