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第38話

俺は生まれて初めて渋谷という街に降り立った。 そして景のマンションに着いて、唖然とした。 芸能人だからいい部屋に住んでいるっていうのは当たり前に分かってたけど、想像を遥かに超えた凄い部屋で度肝を抜いた。 まるで高級ホテル。 リビングの大きな窓から外を見渡すと、街のネオンがキラキラと輝いていた。 景から事前に住んでいる場所を聞いてネットで調べてみたけど、青葉台、代官山と並んで最高峰のグレードだと書かれていたから手が震えた。 部屋は至ってシンプルで無駄なものが何一つ置いていない。 対面式の広いキッチンと、ダイニングテーブル、ソファ、スタンドシェルフと観葉植物。 部屋の隅には何やら体を鍛えるグッズやヨガマットのような物が敷いてあるけど、まるで生活感が無かった。 本当にこんなところに毎日住んでいるのか。 そして本当に俺と同じ人間で、同い年なの? ここまで違いの差があると愕然とする。 「景って……何者?」 「適当に座ってて。お酒飲むでしょ?」 景は驚きを隠せない俺の質問は無視して、キッチンの方で準備をし始めた。 ぼーっと立っている訳にもいかないから、とりあえずやたらと大きくて高そうな本革のソファーの端に座る事にした。 なんだか緊張してしまう。 膝の上で拳を作って、動けないでいると。 「修介、リラックスしてよ。誰も見てないんだから。お好み焼き屋の前に立ってる狸の置物みたいだよ」 「誰が狸や!」 いやそれより、誰も見てないんだからの方が気になった。 そんな事を言われたら、余計緊張してしまうではないか。 誰も見ていない。二人だけ……。 俺は即座にブンブンと頭を振る。 (何を考えてるんやろうか、俺) 翔平に指摘されて、自分の気持ちに気付いたあの日以来、ますます気持ちが加速してコントロールが効かなくなった。 景からのたまにある電話には飛びついて出るし、話し終えた後のこの胸の安心感。それと同時に体の奥から沸き起こる、焦燥感。 早く会いたくて仕方が無くなるのだ。 (はぁぁ。抑えとかなアカン。変な事言うて、ボロ出さんようにせんと) 翔平は相変わらず他人事だと思って、景に告白しろと安易に言ってくるけど、そんな事出来るわけが無い。 仮に言ったとしてどうなる? 俺は男が好きだって事も言えてないっていうのに、俺がいきなり景が好きだなんて言ったら。 怖かった。景にもし拒絶されたらと思うと。 「何か考え事?」 「!」 俯いて悶々と考え込んでいたら、キッチンにいたと思っていた景が俺のすぐ隣に座っていた。それも距離が近い。 いや、初めて一緒に飲んだ時もこのくらいの距離だったか。 凄い。好きだって認識しただけで、こんなにも胸が高鳴るなんて。 「そんなに驚いたの?僕の部屋」 景はクスクスと笑いながら、テーブルに俺の分のグラスを置いてくれた。 気を抜くとドキドキと鳴る心臓の音が聞こえてしまいそうだったから、とにかく冷静になることにした。 「そりゃあ、誰だって驚くやろ?若いのにこんな部屋に住めるだなんて、景ってホンマに凄いんやなぁ……」 そんな事ないよと笑って、景はグラスに白ワインを注いだ。
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