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第40話
景はその長い足を組みながら、片手をソファーにつくと首を少し傾けて片えくぼを作った。
「でもほんとにさ、惜しいんだよな。修介が女の子だったら完璧なのにさ」
「完璧?何が?」
「僕、ほんとに修介みたいな人タイプだよ。女の子だったら彼女にしてたのに、なんで修介、男なわけ?」
それを聞いて表情が固まった。
やり場のない、この胸の軋み。
分かってる。この人は女の子が好きなんだって事ぐらい。けど、改めて面と向かって言われるとすごく落ち込む。
この人が俺と同じ気持ちになって心が通じ合う事なんて、きっと一生無い。
なんで男なのって、そんなの俺にだって分かんないよ。
なんで俺が女に生まれなかったかなんて。
俺はワイングラスを持った手を、ゆっくりと膝の上に置いた。
何か言わないと変に思われる。
そう頭では分かっているのに、体が、頭が鉛のように重くて、鎖で地面に引っ張られているみたいに硬直してしまった。
「どうしたの?」
声を掛けられてハッとして、俺は慌てて作り笑いをして景の方を向いた。
「フッ。ごめんな〜女の子やなくて。じゃあもしも女の子やったら口説くんか?俺の事」
ニカッと笑って見せたけど、心は全然笑っていない。
すると景はクスッと小さく笑って、グラスをまたテーブルに置いた。
「うん、口説くよ。髪、綺麗だねって」
「ハハ、君、ポメラニアンに似てるねって?」
そうそう、と景は笑いながら、俺の方に手を伸ばしてきた。
俺の頭にその大きな手を乗せて、俺の頭頂部から形に沿って毛先の方へとスッと移動させた。
――その瞬間、俺の手の内にあったグラスは見事に床に落ちて、バリン、と鈍く高い音が部屋に響いた。
「あっ……」
「大丈夫?!怪我、してない?」
グラスの中にあった液体もジワジワと床を伝っていく。下を向いてそれを目で追っていた。
履いていた靴下にも少しシミが出来た。
「動かないで。今拭くもの持ってくるから」
パタパタとスリッパの音を鳴らして、景はキッチンの方へ向かった。
景に頭を触られた瞬間、まるで全神経がその熱い掌に握られたんじゃないかと思うくらい、電流がビリビリと光の速さの如く全身に送られた。
撫でられるなんて、初めて会った時からやられてきたからそんなの慣れているはずなのに。
こんなのは知らなかった。触れられただけで体が熱くなるなんて。
(マズイ。自分で思ってる以上に俺、重症かも)
気を落ち着かせようと深呼吸をし、ソファーから体を降ろしてしゃがんで、グラスの破片を一つずつ震える指先で摘んで拾った。
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