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第48話

頬杖をついて彼の低くて甘い声をイヤホンで聞きながら見ていると、さっき酔っ払いの親父に理不尽に怒鳴られてキレそうになった事なんて夢のように思えるくらい、穏やかになれた。 《僕の今回の役は、一見クールだけど言葉に出さないだけで、実はいろんなことを感じているし、周囲をよく見ているような人で、そういう人は男としても憧れます。こうした素晴らしい作品に出会えて本当に光栄です。これからも色んな役柄に挑戦していきたいです……》 スマホ越しの景はそう言いながら歯を出してニコッと笑っていた。 ああ、その幼さの残るような笑顔が世の女性たちを虜にするんだよなぁとボーっと眺めていると、突然、耳からイヤホンが外された。 「いつもこういうの見ながらヌいてんの?」 翔平がいつのまにか俺のすぐ隣に立って、スマホの画面を覗き込んでいた。 「わーっ!!」 俺は慌ててスマホを取り上げたけど、時すでに遅し。 バッチリと画面を盗み見た翔平はニヤニヤしている。 「お前はいいよなー、検索すれば何千何万と動画が出てくんだから。さとみちゃん、写真とか動画撮らせてって言っても恥ずかしがって撮らしてくんないから、会えない日が続く時は想像で抜くしかねぇし。お前はそうやって見ながら抜き放題じゃん」 「見ながらなんてっ、抜いてへん!!(一回しか)」 驚いて心臓がバクバクといっているのを落ち着かせようと深呼吸する。 翔平は、あーマジで疲れたーと言いながら店の名前が刺繍されたキャスケットを脱いで、俺の向かいの席に座った。

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