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第50話
バイトがようやく終わって店から出ると、翔平は「さとみちゃんの家に泊まりに行く」と言って足早に帰って行った。
他のバイトの奴らと少し談笑してから別れた後、俺は徒歩で自宅の方へ向かった。
マフラーをグルグル巻きにして、モッズコートのファー付きのフードを頭に被り、ポケットに手を突っ込みながら歩くけど、冷気が容赦なく入り込んできて、肌が針をさすように痛い。
(ゔー、寒っ)
自宅までは二十分ほどで着く。
田舎だからこんな時間にもなれば車は通っていなくて、もちろん俺しか歩いていない。
外灯がポツンと何メートルか置きに申し訳程度に付いているけど、切れかかっているものもあってほとんど役に立っていなかった。
しばらく歩いてから、いつものようにショートカットしようと脇道に入り、砂利の道を抜けて神社の中に入って突っ切り、石の階段を降りて隣にある公園の中に入った。ここを通れば二、三分程は短縮できるからだ。
真っ暗でなんだか幽霊が出そうなくらいシンとしていて、初めは正直怖かったけど何度も通る内に慣れていった。
いつもなら素通りするところだったけど、今日は違った。
公園の中に人がいた。男の人だ。
男はブランコの囲いの金属の端の部分に腰掛けていて、手に缶ビールを持っていた。
同世代かな?と思ったのは、格好が見るからに大学生のような風貌だったからだ。
男が俺に気付いてフッと顔を上げた。
暗いから分からないけど、一瞬目が合ってしまった気がしたから、あ、見てんのバレた、と思いすぐに目を逸らして俺は歩き続けた。
(こんな時間にこんなとこで。酔っ払いやな)
歩きながらどうしようか、と考える。
なんとなくだけど、そいつにさっきからじっと見られている気がするからだ。
変に絡まれても面倒だし、戻ろうか?
男が座る場所のすぐ隣が通り道だから、嫌でも通らなくてはならない。
一回踵を返して戻っても変に思われるし、やっぱりそのまま男の横を突っ切る事にした。
そして、少し早歩きになったけど、無事横を通り過ぎる事が出来た。
なんとなくホッと一息つく。
「危なくない?こんな時間に一人で」
束の間、突然声が聞こえたから、俺は猫のようにビクッと背筋を反応させて振り向いた。
さっき座っていたはずの男は、三、四メートル程後ろにじっと佇んでいた。
表情はハッキリと読み取れないけど、身長は翔平と同じくらいありそうだ。
あたりは暗闇だし他には誰もいないから、得体の知れない恐怖を覚えた。
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