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第60話

俺のいきなりの声にビックリしたのか、向こうからハハ、と笑った声が聞こえた。 その後すぐに、景ほどの低い声の持ち主が俺に話しかけてきた。 『もしもし、久しぶり。俺やけど。覚えてる?』 瞬くんの声が聞こえた途端、懐かしさで嬉しくなった。 全然変わってない。俺やけど、って言うところ。 「お、覚えてるに決まっとるやろ?めっちゃ久しぶりやんか!どうしたんいきなり!」 『元気にしとる?修介。いま関東の大学通ってるんやろ?』 「元気元気!そやで!千葉で一人暮らししてんねん」 瞬くんととりとめのない話をした。 四年のブランクなんて感じないくらい、盛り上がった。 不思議だ。瞬くんとこうやって電話で話すなんて。 彼の事を酷く憎んだ事もあったのに、人って嫌なことがあっても時間が経てば大抵の事は許せるものなのか、なんだか付き合い立ての頃を思い出して、こうやっているのが嬉しくなってしまう。 『今度、修介達のクラスで集まるんやろ?俺も誘われたんやけど、行こうかなぁ思うてて』 「あ、そうなん?じゃあ久々に会えるね。楽しみにしとる」 『その前に、おれ修介に会いに行こうかなぁ思うてんねん』 「へっ?どゆ事?」 瞬くんの好きなロックバンドが東京でライブをするらしく、それが終わったら無期限活動休止に入るからどうしても行きたくてチケットを申し込んだら奇跡的に取れたらしい。 瞬くんがそのバンドを好きだっていうのは高校の時も言っていたから知っている。 ライブが行われる土曜日の夜、俺の家に泊めてほしいと瞬くんは言った。 「よくチケット取れたねぇ。そのバンドのライブって人気過ぎて倍率めっちゃ高いって有名やん」 『まぁそこは?俺の実力かな?なんちゃって。だから、迷惑や無かったら泊まってもええ?』 「うん、俺は別にええよ。次の日に帰るんか?」 『いやー、折角だからもう一泊くらいしたいなと思っとるから、次の日は漫喫に泊まる予定』 「え、そんなん大変やんか。二日とも俺んち泊まれば?」 『え、ホンマ?ええの?ありがとう修介!感謝しとる! じゃあ、折角やからどっか遊びに行かへん?買い物とか付きおうてくれたら嬉しいな』 「えっ、もちろんええよ!楽しみにしとる!」 電話を切った後、なんだかワクワクした。 まさか、瞬くんが会いに来るなんて。 瞬くんも大学生だから、髪とか染めて、服もオシャレにしてるのかな。 相変わらず大学でも色んな男に告白されて、何人も同時に付き合ってるんだろうな。 ますますカッコよくなってそうだな。 俺の中での瞬くんとの忌々しい記憶は払拭されて、どんどん美化されていく。 新しく人生をやり直す為にこっちに来たのに、結局会う事になってしまった。 けれど嫌な気持ちは全く無い。 逆に会いたい気持ちの方が強い自分がいて、今の浮き足立ってる自分が晴人や秀明にバレないようにしなくては、と心構えして教室へ向かった。

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