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第61話

「ヘェー。瞬、よく取れたなそのチケット」 翔平は見た事も友達でも無い瞬くんの事を、何故か前々から呼び捨てだ。 バイト先の飲み屋で、ホールの隅に立って翔平と合間を縫って立ち話をしている。 今日は平日で比較的空いてる方だからこんな事が出来るけど、週末となればこんな悠長な事はしていられない。 「うん、凄いよな。あんなん宝くじに当たるようなもんやで」 俺はキッチンの奥で仕事をしている店長にこの立ち話がバレませんようにと祈りながら翔平に笑いかける。 「で?こっち来て修介と遊ぶって事ね?」 「そうやね。まだ詳しくは決めてないけど、夜行バスで朝にこっちに着く言うてたから、その後ブラブラして、次の日は買い物でもしようかって話しとる」 「……もしかして、お前ん家泊めるわけ?」 翔平は獲物を捕らえるかのような目で俺を鋭く見つめてくる。 あれ、これデジャブだな。景が好きだろって俺に問い詰めた時の目だ。 「え?うん。ダメ?」 「いや、ダメっつーか何つーか……平気なの?お前」 「平気って、何が?」 「……修介って、たまーに抜けてて天然ぽいところあるよな」 「はぁー?なんやねんいきなり」 「ヨリ戻すつもり?瞬と」 「え?ヨリ?」 そんな事考えてない。 瞬くんの事は確かに一時好きだったけど、遊ばれたって気付いてから一気に冷めていったし。 「まさか、そんなんあるわけないやろ」 「お前はそうでも、あっちは分かんねーぜ。下心があって連絡してきたのかもよ。一度はセックスもした仲なんだろ?」 「ちょっ、声がでかい!……無い無い。俺、瞬くんの二番や三番やったんやで?今更やり直そうなんて言うてくるような人じゃあらへんよ、瞬くんは」 「ずっと考えてたけど、やっぱり俺には修介が必要なんだ!とか迫って来たらどうする〜?」 「無い無い。なんで四年も音沙汰無くていきなりそうなるんよ。ただ単に、瞬くんは純粋にライブを楽しみたくて、俺が近くに住んでるからちょっと寄ってこうかなって思ってる程度やと思うよ。お金も色々掛かるから、俺の家に泊まればタダやし?」 「ふーん。まぁ俺は別に何でもいいんだけどさ。景の事諦めて瞬のところへいったとしても」 「なっ……!」 そんな事するわけない、と俺が反論しようとした時、店の中にピンポーン...と電子音が鳴り響いた。 「ただ今お伺いしま〜すっ!」 翔平は語尾を上げた馬鹿でかい声を出した後にテーブル番号を確認して席へ向かって行った。 矢口くんは笑顔と声だけはいいね、と店長に褒められていたなと翔平の後ろ姿を見ながら思い出して、残された俺は瞬くんの事を考えてみた。 今日、瞬くんとの電話が思いの外楽しくて、会えるのを楽しみにしている自分がいる。 もちろんこれは、友達としてだ。 瞬くんとやり直したいなんて微塵も思ってない。 だって俺は景が好きなんだから。 諦めるとか……まだ考えてない。 ふと、景が今度出るドラマの内容を思い出した。 昔愛人にしてた男と再会して、あのドキドキが忘れられなくて不倫しちゃう話…… [何浮気してんだよ。お前は藤澤 景が好きなんだろ] 昼間、晴人に言われた言葉を思い出してハッとなった。 (アホらし。瞬くんは友達や、友達) また呼び出し音が鳴ったから、今度は俺が声を出して席に向かった。 翔平のように大きな声を出すのはいつまでも苦手だ。

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