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第62話

瞬くんの突然の連絡から一カ月後。 俺は景のマンションに来ていた。 景に会うのはあの夜以来。 彼はその間忙しくしていて、国内は北海道、京都、海外はグアムまで、幅広く旅をしていたようだ。 「グアムには新しく出す写真集の撮影で行ってて。穏やかな風景とか、ゆったりとした海とか潮の匂いとか、本当に最高だった。リラックスして撮れたし、素の自分が出せたような気がするよ」 景はキッチンで手際よく料理をしながら思い出話を聞かせてくれる。 先程からいい匂いのするこの部屋のダイニングテーブルに着席している俺は、お腹を空かせて今か今かと出来上がりを楽しみに待っているところだ。 (買う……!写真集、絶対買うで……!) 景のフライパンを自由自在に操る手元を見ながら、心に誓った。 「ええなぁ。グアムとか行ってみたいなぁ。ていうか海外自体行ったことあらへんから、どこでもええから行ってみたい……」 「卒業旅行でみんなで行ってみれば?学生限定プランみたいなので見つければ、きっと海外でも安く旅行できるよ」 「えー、でもそれには今からお金貯めとかんと」 「そうだね。コツコツとね」 景はふふ、と笑いながらフライパンからパスタをトングで摘んで皿に盛り付けた。 湯気からはフワッとにんにくの香ばしい香りが漂って来る。 すでに食卓には、色鮮やかな様々な料理が並べられていた。 「おまたせ。一応これで、全部出来たかな」 「凄い!めっちゃ美味しそうやんか!これ何?」 「これはアサリとエリンギのアヒージョパスタ。こっちは野菜のマリネとガスパチョにオマール海老のビスク。スペインバル風アンチョビポテトと、あとはチーズと生ハムと焼いたバゲット並べただけだから、適当につまんで?」 「へー……」 景は丁寧に説明してくれたけど、カタカナが多すぎるから途中から適当に聞き流した。 よく分からないがとりあえず、お洒落な料理だということだろう。 景はエプロンを取って席に着くと、テーブルの上にあるグラスに白ワインを注いでくれた。 この間割ってしまったグラスは、本当に引き出物だったんだろうか。 やっぱり気を使って嘘を吐かれているような気がしてならないけど、もし本当だったら怖いから聞かない事にしよう。 乾杯してから、俺は作ってくれた料理を口に運んだ。 「うまっ!」 何これ。プロの味。お店出せそうな勢い。 景って本当に何者なの?景にこの世で出来ない事は無いの? 「良かった」 景はニコッと笑って、スペインのなんとかっていう料理を堪能していた。

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