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第72話

さっきのファミレスから歩いて15分。 俺の部屋は、アパートの外階段を登ってすぐの角部屋だ。 鍵を回し、ドアを開けて瞬くんを部屋に招き入れた。 「お邪魔しまーす」 「どうぞー。狭くて汚いけど」 瞬くんは靴を脱いで中へ進むと、1Kの8畳程のこの部屋をぐるりと見回した。 窓際にはリサイクルショップで手に入れた若草色のソファベッドがあり、その向かいの壁にアシンメトリーなデザインのテレビ台が置いてある。 南向きだから日当たりも良く、閑静な住宅地だから気に入っている。 収納が少ないのが玉に瑕だ。 「なーんも。綺麗に片付いとるやん。狭い言うたって、大学生の一人暮らしやったらみんなこんなもんやろ? あ、ちゃんと風呂とトイレも別やん!」 瞬くんはドアをパタパタ開けて中を覗き込んではしゃいでいた。 そういえば、高校の友達をこの部屋に招いたのって初めてだ。 しかもその相手が瞬くんだなんて。 「荷物は適当に置いといて?えっとー、今日は五時からライブで、明後日の九時の夜行バスに乗るんよね?買い物とかは明日行くとして……どうする?もう出る?」 「いやー、ちょっとだけのんびりしてもええ?バスん中でなかなか熟睡できへんかったんよ。後ろの親父がイビキうるさくて」 「うん、ええよ。ゆっくりしといてもらって」 瞬くんは荷物やコートを剥ぎ取った後、あぁーっと言いながらカーペットが敷かれた床の上にゴロンと寝そべって伸びをした。 なんだか猫みたいで可愛い...と微笑ましくなりながら、テレビの電源を入れて、まな板も満足に敷けない程の狭いキッチンで、ケトルに入った水を沸かし始めた。

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