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第73話
「大丈夫なん?本当に泊まっても」
「え?ええよ?瞬くんの布団だってちゃんとあるし」
「やなくて、彼氏とか怒らへんの?」
「いや、俺おらへんもん。こっち来てから出来てへんよ」
「へー、意外やな。お前モテそうなんに」
イケメンの瞬くんにそうやって言われるとちょっと嬉しくなる。
悲しい事に、俺の好きな人は一生振り向かないけど。
「じゃあ、俺たち今どっちもフリーって訳や」
瞬くんの低い声がやたらとこの狭い部屋に響いた気がした。
なんだか違和感を感じ取ってチラッと視線を送ると、瞬くんは寝転がったまま俺の事をじっと凝視していた。
な、何?その眼差し。もしかして……?!
[ずっと考えてたけど、やっぱり俺には修介が必要なんだ!とか迫って来たらどうする〜?]
あの日、翔平に言われた事が、まさか現実に?
唇を真一文字に結んでいると、瞬くんはこみ上げてくる笑いを押さえきれずに吹き出した。
「あはは!修介はホンマ面白いな!そんな怖い顔せんと、襲ったりなんかせーへんから安心しろや!」
「なっ……もう、からかわんといてよっ」
お湯が沸いたからインスタントコーヒーにお湯を注いで、テレビの前にある円形のミニテーブルの上に置いた。
「好きな奴もおらんの?」
瞬くんの言葉にビクッと体が反応した。
俺は誤魔化すようにコーヒーを飲むけど、瞬くんは察したみたいでニヤリと微笑んだ。
「あ、おるんや。どんな奴?同じ大学とか?」
俺は迷ったけど、思い切って告げた。
「……藤澤 景」
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