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第74話

瞬くんはキョトンとした顔で首を傾げた。 「藤澤 景?何、あいつの追っかけでもしてんの?現実的な人ではいないわけ?」 「現実的な意味で藤澤 景なんよっ!俺、実は景と友達なんよ」 「えー?修介、そんな冗談言う奴やった?」 瞬くんは笑いながら上半身を勢いよく起こして、いただきまーすと言ってコーヒーを啜る。 「ホンマなんよ!バイト先の友達が藤澤 景と幼馴染で、去年紹介してもらってから仲良くしてるんよ。一緒に飲んだり、映画観に行ったり、景が住んでるマンションにも行ったんやで?」 「えー、スゲー」 瞬くんは適当な返事をしたから、俺は目を細めて睨みつける。 「……瞬くん、信じとらんやろ?」 「あは。バレた?だってそんなん現実に起こる事なんかなぁー思うて。ホンマなん?」 「ホンマやって!ほら、ちゃんと連絡先も入っとるし」 スマホの電話帳を開いて、藤澤 景と表示された画面を見せると、瞬くんは覗き込むように体を動かして、その画面を凝視した。 狐につままれたような表情をしていたけど、その後すぐに笑って吹き出した。 「こんなん適当に文字入れていくらでも作れるからなぁ。なんかないん?例えば、一緒に写ってる写真とか」 「オッケー!写真やな!……あ」 写真と言われて一瞬フォトブックを開きかけたけど、そういえば景と一緒に写真を撮った事なんて一度も無いことに気付いた。 景個人の写真ならスクショして何枚もあるけれど。(決してヤラシイ時に使うものではない。目の保養として!) 「写真は……無い」 唇を尖らせ罰の悪い思いをしながら答えると、瞬くんはすかさず提案した。 「じゃあ電話掛けてみて?」 「うん……えっ!今?」 「うん。喋っとるところ見れば納得するかも」 「え〜……」 瞬くんの前で電話しなくてはならないなんて、なんだか気まずい。それに、こんな昼間にこっちから電話した事は無い。大抵は夜だから。 瞬くんは胡座をかいて、興味津々といった様子で俺の顔を覗き込んだから、少し怯んでしまった。 「電話、してもええけど、仕事やから出んかもしれへんで?」 「ええから。早う掛けてみいや?」 「……分かった」 俺は意を決して発信ボタンを押した。

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