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第77話 side景

「もしもし」 僕がそう言うと、相手は数秒遅れてから慌てて言葉を発した。 『あっ!もしもし、景?今、仕事中?』 いつも以上に声が高く、慌てているような様子だったから少し笑ってしまった。 「うん。仕事だけど、少しなら大丈夫だよ。珍しいね、こんな時間に修介から掛けてくるなんて……」 そこまで言ったところで、わーっ、と電話の向こう側から修介以外の声が聞こえた。 誰かとコソコソと話をしている様子だ。 「誰か一緒にいるの?」 そう言うと、次に電話口に出たのは修介では無く、修介よりも大分低い声の持ち主だった。 『はじめまして!俺、修介の友達の重村って言います!』 いきなりの事で驚いて何も発せないでいると、再度修介が出て、早口で話しはじめた。 『景っ、ごめんいきなり!今、高校の友達と一緒におんねんけど、俺が景と友達やって言うても信じてもらえなくて、電話してみろっていうから電話してもうたんよ!ごめん、仕事中に』 「ああ、今日だったんだ。高校の友達がこっちに来るのって」 『そうなんです!うわー、スゲー!ホンマに友達なんや!……今度握手して下さい!』 再度その重村という友人が出て、やはり二人で笑い合いながら話す声がなんとなく聞こえた。 きっとスピーカー機能を使って僕の声を聞いているのだろう。 「……うん。もちろん」 僕のその言葉には反応はなく、もうええやろ?と修介が小さく言ったのが聞こえた。 何やら二人で揉めている様子だ。 僕はどうしたらいいのか分からずにフッと笑って、とりあえず修介に向けて話しかけた。 「随分と仲がいいんだね」 『あー、はい!付き合うてましたし!』 重村くんはハキハキした声で応えた。 その言い方になんとなく違和感を覚えたけれど、すぐに修介の声が耳に響いた。 『友達としてっ、いろんな場所に付き合うてくれてたから仲良しなんやっていう意味で!決して怪しい意味では無いからなっ?!』 「ふっ、分かってるよ」 ふと目線を遠くへ送ると、スタッフに手招きされている事に気付いた。そろそろ準備をしなくては。 「あ、修介ごめん。僕、そろそろ行かないと」 『あー、うん!ごめんな、こんなんで電話してもうて!じゃあ撮影頑張って!』 「うん、じゃあ……」 僕が言い終える前に、修介はブツッと電話を切ってしまった。 全く。自分勝手だな。なんだか忙しなかったし。 重村くんという友達とは、もう連絡は取らないと思っていたと言っていたから、会えて余程嬉しいのだろう。 それにしても先程の修介の慌てぶりはなかなか面白かった。 明日の夜は休みだから、修介に電話してみようかと思っていたけれど、友達と一緒にいるんだったら控えた方が良さそうだな。

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