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第79話
熱愛なんて、景との電話では何も聞いていない。
この間マンションに行った時にも、最近仕事終わりに飲みに行ってこんな話が出て……くらいにしか言っていなかったから、どこの誰と行ったかなんて訊かなかった。
もちろん、佐伯さんと食事に行った事も、そんなに親密にしていて手を引いてタクシーに乗り込むような仲なんて事も景から一言も聞いてない。
スマホの画面とにらめっこする俺を見て瞬くんは前のめりになった。
「友達なんに知らんかったん?」
グサ。
う、今俺の心に矢が刺さった。
痛いとこをつかれて、俺は俯く。
「……景はあんま、そういう話はせーへんねん」
「ふぅん、そうなんや。ていうか、見込みありそうなんか?その藤澤 景。修介がゲイだっていうのは知っとるん?」
「いや、大学の友達とか、バイトの友達には話したけど、景にはまだ言ってへんのよ。どう思われんのかが怖くて」
「……先が見えへんな。早よ違う人に目を向けんと」
「えっ!」
瞬くんの言葉に驚いて即座に反応した。
そんなにハッキリと断言しなくてもっ!
「よう考えてみいや。相手はノンケの芸能人やで? 万が一付き合えたとしても、あっちは忙しくてなかなか会えへんやろ。生活水準レベルも違うし、今は友達だからうまくやってるのかもしれへんけど、絶対価値観の違いとか出てくんで?」
「……」
瞬くんの言うことはもっともだ。
そもそも、相手は芸能人。
住んでる場所だって大きさだって、天と地の差ほどある。
容姿や性格までまるで正反対。
このまま好きでいても先なんて見えないのは分かってる。
でも、すぐに辞められる程の恋愛だったら苦労していない。
「カリギュラ効果やな。絶対やるなと言われれば逆にやりたくなるやつ」
「……瞬くん、よう知っとるなぁそれ」
絶対無理だと分かっていても、何かに縋って期待してしまう。
優しくしてくれて、頭を撫でてくれれる度、もしかしたら奇跡が起こるかもしれないと。
好きになってもらえる奇跡なんて、起こるはずないのに。
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