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第80話
「だからさ」
瞬くんは斜め向かいに座る俺の方へ手を伸ばして、俺の頭に手を置いて形に沿って動かした。
まるで景にやられているのかと思うくらい、手の温かさや大きさも似ている。
「そんな奴やめて、俺にしなよ」
そういえば付き合っていた頃、瞬くんにも、犬みたいやなって頭を撫でられた事があった。
瞬くんは曇りない眼差しで俺の顔を凝視する。
その黒目がちの瞳に吸い込まれそうになって、俺はカッと顔が熱くなって、何か言わなくてはと口を半開きにして慌てていたら、瞬くんはまた子供みたいに無邪気にはしゃいで吹き出した。
「だからっ!冗談やで〜!修介はほんま面白いなぁ〜!」
「……瞬くん、そんな事ばっかりしとると今日泊めへんからな?」
「ハハ、ごめんて。なんか修介が懐かしくてちょっと虐めてしまった」
瞬くんはコーヒーを飲み切ると、また先程のようにゴロンと寝転がって、ねみーと言って寝てしまった。
二時にここを出れば間に合うって言っていたから、ゆっくり寝させてあげよう。
毛布を掛けてあげた後、ソファーに座って再度、景のニュースをスマホで検索した。
見れば見る程、落ち込んだ。
景が噂になったこの間の女優さんとはこんな写真は無かったけど、今回こうやって写真が出たって事は、本当に付き合っているのかも。
最近、忙しいみたいだから電話もなかなか出来てなかったけど、本当は仕事じゃなくて新しい彼女ができたからなのかもしれない。
俺が酔っ払いに襲われそうになった日、景のあの眼差しを見て、友達としてでもいいからそばにいたいと誓ったはずなのに、見事に醜い嫉妬をしている自分がいる。
人は恋をすると、なんて身勝手でわがままになるんだろうか。
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