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第89話

着信履歴の画面に、藤澤 景の文字が二つ並んでいたのだ。 景とはさっき電話したから名前が表示されているのは当たり前なんだけど、なんだかおかしい。 今日の日付で二つ並ぶなんて、身に覚えが無い。 一番上に表示されている景との通話時間を見ると、着信 2分 と書かれていた。 その横には 21:10とも書いてあって、さっき俺がコンビニで買い物をしている時間帯だと分かった。 すぐに理解した。 俺がここにいない間、景は電話をくれて、瞬くんはその電話に出たんだ。 サーッと血の気が引いていって、俺は気持ち良さそうに眠る瞬くんの事なんて御構い無しに、その肩を激しく揺さぶった。 「瞬くん!瞬くん起きぃや!自分、景と電話したんか?!」 瞬くんはユサユサと揺さぶられると、迷惑そうに眉根を寄せて、閉じていた瞼を少しだけ持ち上げた。 「んー、なんやねんいきなりー……あ、修介帰ってきたんか……」 「これ見ぃや!俺がいない間、景と何話したんよっ?変な事言うとらんやろうね?!」 スマホの着信履歴の画面を見せると、瞬くんはよいしょと起き上がり、目をシパシパさせてからまるで老人のように目を細めた。 「……あー、うんうん。電話したで。なんや、修介に用事あったみたいやけど」 「それでっ?景とは何話したんよっ?」 「なんやったっけなぁー。確か、勝手に電話に出るなんて、よほど仲良しなんだねーって羨ましがられて……ちょっとしたら切られてしもうたで?」 「……ほ、ほんまにそれだけ?」 それだけの会話でニ分いくだろうか? 「ホンマやってー!修介、俺の事信じられへんの?この目を見ぃや!この、曇りなきマナコを!」 瞬くんがいきなり目をクワッと見開いて顔を寄せて来たから、俺はまた身体を引いて逃げた。 し、信じられない、この酔っ払い。 「……も〜、何話したんよ〜、勝手にベラベラ喋っとらんやろうねー俺らの事とか……」 「あーうっせぇなぁさっきからブツブツと!ホラ、買ってきた酒でもう一回乾杯しようぜ!夜は長いんやから!」 「瞬くんはもう飲んだらあかん!水にしとき!」 えー、なんだよー、とブツブツ愚痴る瞬くんを無視して、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して瞬くんの目の前にドカッと置きながら、スマホに耳を当てた。 景の番号にかけてみたけれど、一向に出なかった。 なんとなく胸騒ぎはしたけれど、仕方なく通話終了ボタンを押して、景からの電話を待つ事にした。

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