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第88話
酒を買いに行くと言って出てきてしまったから、とりあえず駅前のコンビニに行くことにした。
まだ酒は冷蔵庫にあるけど、ビールとカクテルの缶を二缶ずつカゴに入れてレジへ持って行った。
コンビニから出て、ビニール袋をガサガサといわせて、わざとゆっくり歩きながら来た道を戻った。
家に着くまでには、この頭の中を整理しよう。
きっと瞬くんは、先輩が結婚する事が受け入れられないから、ああやって俺に言い寄って来たんだ。
酔っ払いの相手なんて慣れている筈なのに。
取り合わなければいい話なのに、何故こんなに悩んでいるのだ。
瞬くんの言い方はいちいち胸にグサグサくるけど、全部本当の事だからか。
景の事を好きでいてもどうしようもない。
俺と同じ気持ちにならないのは分かっている。
景は女優さんとの熱愛が絶えないし、もちろん俺の事は友達以上なんかに見えない筈だ。
俺に恋人が出来れば、景に対して醜い嫉妬心や独占欲なんて持たなくなる。
そうしたらもっとフラットな関係で、親友としてそばにいる事ができるのかも。
それが一番望ましいのかもしれない。
瞬くんの事は本当に好きだ。
想像以上にかっこよくなっていて、将来の夢もちゃんと持っていて。からかってくるのはたまにムッとするけれど、その愛嬌ある笑い方と顔でいくらでも許せてしまう。
今は、瞬くんとの未来の方が想像出来る。
[まぁ俺は別に何でもいいんだけどさ。景の事諦めて瞬のところへ行ったとしても]
翔平にいつか言われた言葉が背中を押すように頭をよぎった。
このまま、景の事は忘れようか。
そうしたら、誰も傷つく事なんてないし。
(あぁ、よくまとまらないまま家に着いてしもうた!)
あまり遅くなって瞬くんを一人にしておくのも悪いから、フゥ、と一息ついてからアパートの階段を上って玄関に入った。
部屋の奥を除くと、瞬くんは横向きで床に寝転がっていた。
靴を脱いで瞬くんに近づくと、スヤスヤと気持ち良さそうに寝ていたから、少しだけホッとした。
買ってきた缶のお酒を冷蔵庫に入れてから、掛け布団を瞬くんの体に掛けてあげた。
このまま寝ていてほしいな……。
そう思ってふとテーブルの上に目をやった俺は、違和感を感じた。
(ん?なんでここにあるん?)
俺のスマホが移動していた。
さっき部屋を出る前は瞬くんのいる反対側の隅に置いておいた筈なのに、何故こっちに移動しているのか、ふと疑問に思った。
(もしかして、覗こうとでもしたんか?でもロックかかっとるしなぁ)
スマホを手に取りロックを解除してから何個かアプリを開いてみたけど、特に覗かれたような形跡は無かった。
瞬くんは人のスマホを勝手に覗こうとするような人じゃないし、それはないよな、と思ってなんとなくいろいろと弄っていたら。
俺は目を見開いた。
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