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第87話
「俺の事、嫌いなん?」
「……いや、嫌いとかではないけど……」
「ならええやん。俺、さっきの電話でホンマに吹っ切れた。あんな男もうどうでもええ。
修介の事、昨日久し振りに見た瞬間、マジでドキッとしたんよ。容姿だけやなくて、雰囲気とか仕草とか、イチイチ反応してもうて、胸が高鳴って。二日間楽しすぎて、このまま帰るの寂しいんや」
瞬くんは目を逸らさないまま、ジリジリと俺との間合いを詰めてくる。
「瞬くん、酔っ払ってるんやろ!俺たちはもうそんな関係やないんやで?瞬くんはカッコええし、一緒にいて楽しいし好きやけど、俺が今好きなんは」
「藤澤 景の事いつまで好きでいるつもりなんや?」
瞬くんは目を細めてドスの効いた低い声を出したからビクッとした。
(瞬くん、めっちゃ怖い……エッチと酒は人格変わるタイプなんか?)
「好きでいてもどうにもならん相手の事いつまで好きでおるんよ?はっきり言うけど、藤澤 景と結ばれる事なんて120パーないで?俺ともう一回付き合うたらええやん。今度はちゃんとすんで、俺。ちゃんと修介とだけ付き合う。浮気も絶対せーへん」
「……え、え、瞬くん?」
「俺、ヤケになっとるんやないよ。修介とやったらうまくやってけるとホンマに思うてるから言うとるんよ。俺と一緒にいてくれへん?」
「……」
「藤澤 景の事なんか忘れて、俺んとこ来た方が修介は幸せになれんで?すぐにとは言わへんから、前向きに考えてくれへん?俺、今度こそ大事にすんで?」
本気なのか。
それとも酔った勢いなのか。
確かに、瞬くんが言うように、俺は他に目を向けるべきなのかもしれない。
瞬くんの事は好きだ。カッコいいし、頭もいいし、一緒にいて楽だし、面白いし。
問題だったのは、遊び人だったってことだ。
でも今目の前にいる瞬くんは、あの時の遊び人ではない。
ちゃんと俺だけと付き合ってくれるって言っている。
もしかして、もう一度やり直せる?
――景の事なんか、忘れて?
「……瞬くん!」
頭がパンク寸前の中、俺は勢いよく立ち上がった。
「俺っ、もう一回お酒買ってくる!」
財布だけを持って、逃げるようにその場を後にした。
バタンと扉を閉めて外に出て、はぁ、と一息ついて、また小走りで階段を降りた。
この時、スマホを持って出なかったのが運命の分かれ道だった。
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