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第86話
「どうしたん?何かあったん……?」
瞬くんは俺の方をキッと睨んだから、余計な事を聞くんじゃなかったか、と一瞬後悔したけれど、その後瞬くんはダムが決壊したかのように一気に気持ちを爆発させた。
「結婚するんやって、付き合うてた先輩!年上の彼女とデキ婚!昼間、メール来とったからおめでとうって送ったら、何て返信来たと思う?まだ未定やけど、瞬にも披露宴ぜひ来て欲しい、やって!今電話しても同じ事言われたんよ。ホンマ、アホやで!」
瞬くんは早口でそう言って、缶ビールを持ち上げて豪快に飲んだ。
俺は何て言葉をかけていいのか分からずに、ただ呆然としていると、瞬くんは赤い顔でニコッと笑った。
「今電話してたん、藤澤 景?」
「あ、うん……」
「ふーん……」
瞬くんは虚ろな表情で視線を外したから、俺は生唾をゴクリと飲み込んだ。
(瞬くん、酔っ払うの早すぎやろ..….!)
景との電話は長くても10分くらいだったはずだ。
俺がたじろいでいると、瞬くんは持っていた缶ビールをテーブルにコトリと置いた。
胡座の体制から足を動かして両膝をつくと、その綺麗な顔をこちらに寄せてきたから少しドキっとして、俺は逃げるように自然と体を後ろに引いた。
「修介。昨日今日と、俺と一緒に過ごしてみてどうやった?」
「え?どうやったって……楽しかったで?映画も買い物も……」
「ホンマ?じゃあもう一回付き合わへん?俺ら」
「はぁ?」
またからかっているのかと呆れたのと同時に、先輩との事があってヤケになっているのだろうと見抜いたから、とりあえず冷静に諭した。
「あんなぁ瞬くん。いくら先輩が結婚するからいうて、適当にそんな事言うとったらあかんで?」
「適当やあらへん。ちゃんと考えとったんよ」
言葉を遮るように強い口調で言われたから、何も言えなくなってしまった。
瞬くんの黒目がちの目を見ていると、ブラックホールに吸い込まれる星になった気がする。
真っ黒だと思ってたけど、虹彩の中にある瞳孔はよく見たら焦げ茶色だった。
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