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第85話

「もしもし!」 『あ、修介、今大丈夫?』 「うん、大丈夫やで。仕事終わったんか?」 『うん。今日はもう終わり。ごめんね、折角友達来てるのに。すぐ終わるにするから』 「大丈夫やで、ゆっくりでも。今部屋でのんびり飲んでたから。俺もごめんな昨日。いきなりあんな電話してもうて……」 『大丈夫だよ。重村くんだっけ?なんだか元気な人だね』 「そうなんよー」 景に瞬くんの事をいろいろと話した。 もちろん、付き合ってたなんて事は禁句だけど、買い物したり映画観たり、瞬くんがまるでモデルのような事をしているんだという事を。 会話が途切れた時、ふと佐伯さんとの事を聞いてみようかとドキドキしていたけど、すぐに景がまた別の話をし始めたから結局訊けなかった。 春になったら俺の家に来たいと言ってくれたから、その話をした。 「多分一週目やったらまだ学校始まってないから、何曜日でも大丈夫やと思うで?バイト先に希望休も出せるし」 『そっか。僕も一週目は休み取れてるからその時に伺うよ。車で行ってもいいかな?』 「ええよ。うち、目の前がコインパーキングになっとるから、そこに停められんで。じゃあ、詳しくはまた後で決めようか」 『うん。じゃあまた』 電話を切ってから、景がここに来てくれるんだ、とルンルンな気分で玄関のドアを開けた。 「馬鹿じゃねーのっ?!ええか!もう二度と連絡してくんなよっ!」 いきなり瞬くんの荒げる声が聞こえてきたからビクッと背筋が反応した。 俺は靴を脱いで、恐る恐る部屋の奥へと向かう。 「しゅ、瞬くん、どうしたん……?」 瞬くんはダランと下に垂れた手にスマホをギュッと握りしめながらベランダの方を向いていたけど、俺に声を掛けられると振り向いてどかっと床に座り直した。 ギョッとした。顔が真っ赤ではないか。 机の上を見ると、プルを起こした缶は三つあって、瞬くんはこの短時間ですでに一缶飲み干してしまったようだった。 瞬くんは、あー、とかクソっとか不平を漏らしていた。 こんなに不愉快そうな彼を見たことが無かったから少し怯んだけど、恐る恐る90度の角度で向き合うように腰を降ろした。

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