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第94話
病院の駐車場にポツリと止まる一台の車。
遠目からでも、あれが景の車だというのはすぐに分かった。
でも暗くて、フロントガラスの中の様子まで伺う事は出来ない。
近づいていくと、急に運転席のドアが開いたからドキッとした。
景は体を外に出すと、再度扉をバタンッと勢いよく閉めた。
鷹揚な彼には珍しく粗い動きだったから、俺はもうすでに逃げ出したい気持ちになっていた。
景はいつもの黒のレザージャケットを羽織り、デニムとシューズも黒でまとめていた。
まるで今日見た佐伯さんと写る写真の姿にそっくりだったから、その真相を聞いてみようかと思ったけれど、とてもそんな雰囲気ではない。
景は俺と視線を合わせると、少し微笑んでからそのまま車に背中をつけてもたれ掛かり、腕組みをして俺の名を呼んだ。
「修介」
その一言で、一気に空気が濃度を増していくのを感じ取った。
俺は唇を噛んでその威圧感に耐える。
景は真剣な眼差しで俺の目をジッと見つめてくるから、魔法にかかって石にされてしまったように動けなくなってしまう。
凄い。さすが演技派俳優。
と呑気に脳裏で考えてしまったけれど。
「あっ、景、わざわざ来てくれたんか?ありがと。どうしたん?」
只ならぬ雰囲気に冷や汗をかきながらも明るく言うと、景は相反して落ち着いた低い声を出した。
「……僕に何か隠してる事あるでしょ」
その瞬間、嫌な予感がした。
まさか、あの調子こき男、やっぱり付き合ってた事を言ってしまったのか?!
今にも爆発しそうな爆弾を手に持っているような感覚で、今すぐここから逃げ出したくなった。
「正直に言って」
景は変わらぬ調子で俺に聞いてくるけど、その低い声が今日はやたらと胸に突き刺さってくる。
いつもは心が落ち着く声なのに、責められているようで泣きたくなってしまった。
「別にっ……なんも……」
俺は平然を装って首を横に振る。
どうにかやり過ごせないかと逃げ道を探すけど、景を前にしては逃げられない気がした。
それでも俺は抗ってしまう。
景は俺の態度が気に入らないのか、ニコリとはしたが冷たい表情で、少し顔を傾けた。
「君の友達、随分と酔っているみたいだね。聞いてもいないのに丁寧に話してくれたよ。例えば、君達がそういう関係だったって事とか」
やっぱり……!!
俺は白眼になりたい気分を抑えて、何と言い訳をしようかそればかり考えていた。
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