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第95話
「あっ、えっとー、うん、まぁそんな事もあったかなぁ〜……?でもほら、大昔の事やしっ!」
「修介は男が好きなんだ?」
「えっ……」
相変わらず景は不機嫌そうだ。
なんで?なんでそんなに怒ってるの?
確かに隠していた事は申し訳無いけど……。
「そ、それはっ」
「翔平や大学の友達は、その事知ってるの?」
真っ直ぐに見据える景の冷たい視線に耐えられなくて、俺は咄嗟に視線を外して俯いた。
「あ……うん……」
瞬くんからどこまで聞いたのかは分からないけど、鋭いこの人に嘘はつき通せないと腹を括って頷いた。
すると景は大袈裟にため息を吐く。
「翔平や大学の友達には言えて、僕には言えないの?」
あぁ、それで怒っているのか。
自分だけが知らなかったのが許せないのか。
「ごめん、言おうと思っとったけど、なんかタイミング無くて」
「僕の事信頼してるって言ってくれた事、あれ嘘なんだ?」
「え?いや、そんな事は」
「僕、修介に好きなタイプとか訊いたことあったよね。話合わせてたって事?僕にずっと嘘を吐いてたって事だよね?」
好きだから、どう思われるか怖いから景だけには言えなかったのに。
次から次へと責められる事に戸惑い、つい喧嘩腰になってしまう。
「しょうがないやろ?そんなん簡単に人にペラペラ言えるような事やないんよっ」
「じゃあ翔平には言えてどうして僕には言えないの?」
「だっ、だからそれはっ……」
俺は言葉に詰まって奥歯をぐっと噛み締めた。
好きだからだなんて言えるわけない。
「……もうええやろ?結局分かった事なんやから。友達やからって何でもかんでも話せる訳やないんやし。そんなん直接訊く為にわざわざ東京から来たんか?」
俺は不貞腐れてそう言うと、景は片眉をピクッと反応させた。
「……君は何にも分かってないね」
「……え?」
「大学で心理学を学んでるわりには、人の気持ちが全く分かってないよ」
「なっ……」
「僕はね、君が女が好きだろうが男が好きだろうが、そんな事はどうでもいいんだよ。問題は別にある」
――次の瞬間、景は俺の左手首を掴んで引っ張り、自分の胸の中に体を引き寄せた。
一瞬だけ俺の頬が景の胸をかすめたけどすぐに離れて、そのまま体を反転された後、車体に押し付けられた。
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