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第147話

全てを景に委ねていたら唇が離されたから、ゆっくりと瞼を持ち上げた。 目の前の景は優しく微笑んでいて、今度はきつく抱きしめてくれた。 シートベルトもしているし、腰を捻って上半身だけを景の方に向けているからとても無理な体勢だけど、そんなの気にならなかった。 背中に回された手は痛いくらいで、景の肩に顔を乗せるようにしながら首元から香るその甘い香りを嗅いで、俺も恐る恐る景の背中に手を回した。 「修介なら、そう言ってくれると思ったよ」 俺はまた涙が出てしまって、景に見られていないのをいい事にこっそり泣いて、肩に瞼を押し付けて涙を拭いた。 いろんな言葉が頭の中を駆け巡ったけど、うまくまとまらなくて支離滅裂になりそうだったから、何も発さない代わりに彼の背中に回した手にギュッと力を込めて抱きしめた。 目を閉じているとふわふわと宙に浮いているような感覚で、凄く気持ち良い。 やっぱり、景と出会えて良かった。 改めて思った時にふと、景の写真集に載っていたインタビュー記事に書かれていた言葉が頭に浮かんだから、口に出してみた。 「人との出会いは、一期一会。その人と出会った事には必ず意味があると思ってます」 景は背中に回していた手を緩めて体を動かし、俺と視線を合わせた。 「それ、何だったっけ……あ、もしかして、写真集見てくれたの?」 「ん、ちょっとだけやけど」 「ありがと」 「俺と出会ったのも、意味があるって思う?」 「もちろん。君と出会ってから、表情が柔らかくなったって言われたんだ。前はもっと、とっつきにくかったって佐伯さんが言ってた」 「……あぁごめん、佐伯さんの事。勝手に色々とひどい事言ってしまって……」 「もういいよ。気にしてないから。今まで出会わなきゃ良かったなんて思った人は一人もいないよ。例えば僕の事を悪く言ったり、騙したりしたような奴でも、意味があったと思ってるよ。その人達に会わなければ、修介の良さが分からなかったかもしれないしね」 景はまた俺の頬に手を添えた後、目を細めて、喜びを頬に浮かべながら見つめてくれたからまた顔が熱くなった。

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