157 / 454

第157話

「あの、景」 「うん、何?」 恥ずかしい。 でもここは、酒のせいにしておこう。 緊張気味に話し掛けたからか、景は少し驚いた様に自らもグラスをテーブルの上に置いて体をこちらに向けた。 「あの、俺たちってさ……」 「うん」 「付き合ってるって事で、ええんやろうか?」 「……えっ?」 途端に眉根を寄せて怪訝な顔をされたから、俺は慌てて手をブンブン振って笑った。 「あっ!ごめん、やっぱ何でも無いっ」 「ごめん修介。何か不安にさせてた?」 「へっ?」 「付き合ってるに決まってるでしょう? キスだってしたのに、どうしてそんな事言うの?」 それを聞いて安心した。 あぁ、良かった。勘違いじゃ無かった。 俺はホッと一息つく。 「あ、そっかぁ、良かった……」 「ごめん、てっきり分かってると思ってたんだけど……もしかして、ずっとその事気になってたの?」 「いや、一応確認やで?ほら、景にそんな気が無いんやったら悪いしっ!」 「もう、馬鹿だな、修介は」 そう言うと景は、俺の膝の上にある右の手を両手でギュッと握った。 「えっ、景、なにっ?」 「それならちゃんと言うよ。修介、どうかお願いです。僕と付き合ってください」 車の中で俺に告白してくれた時と同じように、潤んだ瞳で真っ直ぐ俺の目を見つめて言ってくれた。 頭に血が上って、今度こそ貧血で倒れるかと思った。 まさか、景が俺にそんな事を言ってくれるだなんて。 半年前に初めて会った時は予想もしていなかった。 やっぱり、俺は人生の運をいま使い果たしたみたいだ。

ともだちにシェアしよう!