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第165話
いつもと違っていた事その2。
バイト先に、新しく入ると言っていた女の子がやってきた。
翔平から同じ大学の後輩で可愛いらしいと聞かされてはいたけど、実際会うのは今日が初めてだった。
夕方に出勤してから二時間ほど経った頃、その女の子が店に入ってきた。
着替えを済ませた彼女は、俺のところへトコトコやってきて、深々とお辞儀をした。
「初めまして。高宮莉奈 です。今日からホールに入る事になりました。よろしくお願いします」
その子の第一印象は、確かに可愛くて、小さい。
俺も人の事は言えないけれど、女の子の中でもきっと小柄な方だろう。
斜めに流している前髪はグレーとベージュを混ぜたような色をしていて、その前髪から覗かせる眉毛は濃い一の字をしている。
肌は全体的に白く、その白さに睫毛の黒が映える。
決して化粧は濃くないけれど、抜かりが無い感じがして、着物が似合いそうだな、と思った。
「北村です。宜しくお願いします」
「あ、北村さん。はい。覚えました。宜しくお願いします」
キッチンに背を向ける形で二人で並んだら、莉奈はやっぱり小さかった。
もしかしたら150センチも無いのかもしれない。
莉奈はふふっと笑って、ポケットからメモ帳をペンを取り出した。
「あの、店長に、だいたいの事は北村さんに教わるように言われたので、色々と教えて下さい」
「えぇっ!店長、いっつも俺に押し付けるんやから……」
翔平だって同じホールなのに、いつからか新人指導は何故か俺担当みたいになってしまった。
バイトの入れ替わりが激しい中で、こんなに長くやっているのは俺とキッチン担当の奴一人だけだからだろう。
「えっ!北村さんて、関西弁なんですか?凄ーい!なんだかカッコいい〜!」
莉奈は目をキラキラさせて俺を見る。
あ、なんか俺、優越感。
「あ、うん。俺、関西出身で」
「へぇ、そうなんですね!私は生まれも育ちも関東なので、そういう方言凄く憧れます!北村さん、四年生なんですよね? 私こっちに来たばかりだから、右も左も分からなくて。良かったら色々と教えて下さい。大学の授業の事とか、ここら辺で美味しいお店とか」
こういう子がきっと、モテるって言うんだろうなぁ。
決して媚びてる訳じゃ無いんだけど、さりげなくアピールしているところが素晴らしい。
翔平にさとみちゃんという彼女がいなかったら、きっとこの莉奈を好きになっていたに違いない。
俺はたどたどしく注文を取る莉奈の隣に付きながら笑って指導しつつも、心中穏やかでなく、気持ちは既に景の元にあった。
すぐに行けるようにお泊りセットなどは持ってきたから、バイトが終わったら電車に飛び乗って景のマンションへ向かう予定だ。
早く会いたいような、会いたくないような。
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