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第111話

景の動画はあれ以来、一切観るのをやめたし、あんなに保存していた景の画像も全部捨てた。 景の事、嫌いにならなくちゃいけないのに、追い討ちをかけるように彼をテレビや雑誌で見かけてしまうから、なかなか断ち切れない。 今が旬の俳優だし、ドラマの番宣などで露出が増えているから目にするのは当たり前なんだけど。 嫌いにならなくちゃと必死で、逆に引き寄せているのかもしれない。やっぱりシンクロニシティだ。 作ってくれたご飯を食べながら雑談していたら、そうだ、と母は急に立ち上がってどこからともなくA4サイズより少し大きめな分厚い本を持ってきた。 「お母さん、最近ハマってる人がおんねん!藤澤 景くん!最近出た写真集買ったんよ!」 「ブッ!」 いきなりぶっ込まれたからお茶を吐きそうになってしまった。 母は法悦の笑みを浮かべながらそれを差し出してくる。 《藤澤 景 写真集 空色》と書かれた表紙には、目を細めてこちらを見つめる景がなんとも言えない色気を醸し出していて、海にでも入ったのか、白いシャツが思い切りはだけて、その自慢の肉体美を露わにした状態でどこもかしこも濡れていて、顔からは雫が滴っていた。 水も滴るいい男ってか。 そういえばグアムで撮ったとか言っていたな。 ま、買わないけど!! 「へっ!オカン趣味悪いで!こんな奴の何処がええねん?気取って水なんか被ってアホちゃうか?《空色》なんてカッコつけとって!《ドブ色》なんかの方がよっぽど似合ってんで!」 「まっ!何よ!こんなにイケメンやのに!景ちゃんの事が気に入らんのッ?」 「景ちゃん言うな!」 藤澤 景の連絡先を知っているだなんて知れたら面倒だから、景との事は黙っておく事にした。

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