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第110話

夜行バスと電車を乗り継いで、実家の最寄り駅から歩いておよそ二十分。 実家の玄関のドアを開けた途端、ニャム太が玄関先まで出迎えにきてくれたのが目に入って嬉しくなった。 「ニャム太ー!元気にしとったんか?ちょっと太ったんちゃう?」 ニャム太を触ろうと手を伸ばしたけれど、その手をひらりとかわしてまた奥の部屋へとトコトコと歩いて行ってしまった。 いつも素直じゃないんだよな。俺が帰ってきてくれて嬉しいくせに。 ニヤリとしながらスニーカーを脱いでいると声を掛けられた。 「あら、修介おかえり。思うてたより随分早いんやなぁ」 「あぁオカン、ただいま」 パタパタとスリッパの音を鳴らしてリビングから顔を出した母は、長い前髪を真ん中分けにして、いつもと変わらぬひっつめ髪だったけれどどこか無造作感のあるヘアスタイルだった。 俺は母親似だとよく言われるけれど、自分でもそう思う。 母も狸顔で童顔で、四十代前半なのに十歳以上若く見える。 ちなみに母は高校の同級生だった父と、二十歳の時にデキ婚した。 「バス大丈夫やった?お金出すから新幹線とかで帰ってくれば良かったんに、あんたバスでええって言うから。ちゃんと寝れたんか?」 「うん。大丈夫。意外と快適やったで」 荷物を居間の隣の部屋にどかっと置いてコートをハンガーにかけた。 キッチンテーブルの上には既に何品か料理が並べられていて、きゅうりの漬物をつまみ食いしてから椅子に座った。 「あら、そんな派手なシャツ着てるの珍しいやないの。いつも地味な色しか着ないんに。似合っとるで?」 そう言われてパアッと気分が明るくなった。 やっぱりお洒落な人に選んでもらえて良かった。 「ホンマ?これ、瞬くんが選んでくれたんよ。覚えとる?高校の時によく家に遊びに来てた、重村 瞬くん」 「重村くん?あぁ、覚えとるよ!あのアイドル風のイケメンの子やろ?いつからかパッタリと来なくなってしまったけど……最近会うたん?」 「うん、ついこの間、アパートに泊まりに来たんよ。東京でライブがあるから言うて」 そっかー、懐かしいなぁ、と言いながら母は台所でレタスを千切って水道水で洗っていた。 高校の友達とは、夜七時から駅前のチェーン店の飲み屋で集まることになっている。 それまでは随分とゆっくりのんびり出来るけど、俺はなんだかソワソワしていた。 今日、瞬くんに気持ちを伝える予定だからだ。 答えは、イエスの予定だけど……。 景の事、完全に忘れられた訳じゃ無いから、図々しいかもしれないけど、それでもいいか聞いてみようと思っている。

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