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第155話
「あっ、ごめんっ」
慌てて手を引っ込める。
景は黙ったままだったけど、少ししてから頬杖をついて、俺の顔を不思議そうに覗き込んだ。
「もしかして修介ってさ」
「えっ……何?」
「初めて僕のマンションに来た時から、もう僕の事好きだった?」
「へっ?!」
唐突な質問で声が裏返ってしまった。
焦る俺とは裏腹に、景は安堵の表情を浮かべる。
「なんだ。じゃあ触らないでって言ったのは、 僕の事が嫌いだったって訳じゃ無くて、好きで照れてたって事?」
「……」
俺は無言で頷く。
景はニッコリと笑って、嬉しそうに俺と乾杯をして一口飲んだ。
「良かった。実は、悩んでたんだよあの時。きっと修介に嫌われてるんだろうなって」
「えっ!ごめん、誤解させてしもうて。照れたっていうか、ちょっと電流が……」
「電流?」
「うん。景に頭撫でられた瞬間、なんかこう、ビリビリって来たんよ。もうどうしたらええか分からん、みたいな……それで力も抜けて、グラス落としてしまって」
「へぇ、そうなんだ。今は?」
景はすかさずこちらに手を伸ばし、俺の頭を撫でた。
不意打ちだったからビクッと肩が反応したけど、ビリビリは流れなかった。
けれど景の穏やかな顔をみたらやっぱり石にされたように固まってしまう。
「い、今は、もうっ、大丈夫なんやけどっ!」
「ほんと?ならいいんだけどさ」
クスクスと笑いながら景は俺を見つめたまま頭を撫で続けている。
ぱちぱち、と瞬きをしながら俺も景を見つめ返した。
あれ、何これ?もしかしてこの前みたいな、キ……
「失礼致します」
店員さんに襖を開けられて、一気に冷や汗が出た。
多分、頭を撫でられていたのを見られてしまった気がする。けど、景は全く動揺もせずに店員さんから皿を受け取って、丁寧にお礼を言っていた。
あぁ、俺、期待している。
この前みたいなキスがまた出来るんじゃないかと。
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