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第167話
「あ、来ました。ありがとうございます」
「うん、俺も来た。高宮さんは、明日も入っとるんよね?俺明日休みやから、分かんない事あったら他の奴に聞いてくれる?一番長くやってるのは矢口翔平って奴だから、その人に聞くのがええと思うよ。明るい奴やから、すぐ仲良くなれると思うで?」
「あぁ、矢口さん。店長が言ってました。矢口さんはたまにサボる癖があるから、勤務中もし遊んだりしてたらすぐに教えてねって」
「ふっ。翔平、マジで適当やからな。でも笑顔と声だけは誰にも負けてへんから、そこだけは見習ってもええで?」
「え、それだけですかー?」
「そうそう、それだけ」
莉奈は歯を出して子供のように笑っていた。
良かった。こんな明るい子が入ってきてくれて。
「じゃあ、私こっちなんで。またよろしくお願いします!お疲れ様でした〜!」
「うん、お疲れー」
莉奈は綺麗にお辞儀をすると、俺の家とは反対方向に歩いて行った。
あっちは大学がある方だから、きっとすぐ近くに家を借りているんだろう。
なんとなくその後ろ姿を少し見送ってからスマホをリュックに仕舞った後、俺はニンマリとした。
これから、景のいるマンションに行くんだ。
きっと今頃、俺の為に美味しい魔法料理を作って待ってくれている。
そしてその後、あわよくば……
キャーッと叫びたい衝動を押さえて、駅の方に向かって歩き出そうとしたその時だった。
「しゅーすけー」
なんだか聞き慣れた低い声が俺の耳に届いたから、キョロキョロと周りを見渡す。
そして駐車場の隅に止まる一台の車が目に留まった。
そこには。
運転席に座りながら頬杖をついて、伊達メガネの奥の目を細めてこちらを見る景の姿があった。
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