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第195話 おまけ side景 眠る人

バクバクとなっている心臓を落ち着かせようと、目を閉じてゆっくり呼吸をして、冷静さを取り戻していく。 僕は目蓋をゆっくりと持ち上げて、目の前の人の様子を伺った。 「……修介?」 修介は横を向いて寝転がったまま、ピクリとも動かない。 見つめていたら、その肩がゆっくりと上下しているのが分かった。 寝ちゃった。 疲れたよね。無理させちゃったかな。 起こさないようにそっとベッドを降りて部屋を出た。 バスルームへと向かい、棚からタオルを一枚取って、熱いお湯で濡らす。 手でギュッと絞って、再び寝室に戻り修介の肌に触れた。 ちょっとだけ修介の手が動いた気がして躊躇したけど、起きはしないようだった。 身体が綺麗になったのを確認してから、毛布をかけてやった後、バスルームへ向かい熱いシャワーを浴びた。 頭をタオルで拭きながら、ボクサーパンツ一枚身にまとった姿でゆっくりと寝室のドアを開けると、先程とまるで変わらない君がそこにいて安心した。 ベッドに近づいて、毛布の中に潜り込む。 肘をついて頭を支えて、修介の寝顔を間近で見てみた。 ――寝顔、初めて見たなぁ。 そこには、天使のような顔で眠る人。 両の手を顔の前で交差させて置いている。 長い睫毛と、唇がほんのり濡れていて。 その唇から繰り返される息遣い。 愛しくて、仕方ない。 僕は正直今まで、本当の恋愛をして来なかったのかもしれない。 今まで、受け身だった。 どうしても自分でこの人を手に入れたい、なんて思ったのは生まれて初めてかもしれない。 そして、こんなに幸福感に包まれるなんて思いもよらなかった。 何故、僕は修介が良かったんだろう。 まだ答えは分からない。 それはきっとこれから二人で導き出していくものなのだろう。 彼の長めの髪の毛を少し摘んで毛先へと流した。それを何度か繰り返しながら思う。 僕のベッドで、鳴いて、乱れてくれて。 愛してるって、何度も言ってくれた。 こんなに幸せな事はない。 僕は君の為に生まれてきた、って、そういう台詞はいつだったか、役で言った気がする。 あの時は実感が湧かなかったけど、今なら分かるかも。 僕はきっと、君に出会う為にこれまで生きてきたのかもしれない。 ……なんて、修介に言ったらきっと、アホやないの?って馬鹿にされるよね。 「修介ー」 吐息交じりに小さく呟いた。 聞こえないようにね。 「ありがと」 僕と出会ってくれて。 痛い思いさせちゃって、ごめんね。今度はうまく出来るようにするからね。 心の中で呟いたのに、修介の声がそれに応えるかのように唸ったから、起こしてしまったかと焦ってしまった。 気持ち良さそうに眠る修介の口は半開きになって、呼吸する度にそこから変な音が漏れていたから笑ってしまった。 修介、イビキかいてる。 僕は修介の鼻をつまんだ。 「……ふがっ?!」 ふふ。変な顔。 一瞬呼吸が止まったから、指を離してあげたらまた気持ち良さそうに寝始めた。 修介の寝顔を見ていると、だんだんと睡魔が襲ってくる。 頭を支えていた腕を伸ばして、もう片方の手を修介の肩に優しく置いた。 今すぐにでもこの気持ちを伝えたいけど、明日ちゃんと伝えよう。 僕は修介の横で幸福感に胸を締め付けられながら、瞳を閉じた。

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