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第197話
奥の席へ向かう途中、通路で翔平とすれ違った。
「あ、そっちのテーブル片付けといたぜ?」
「いや、高宮さんが注文取りに行ったまま戻ってけーへんのよ。もしかしたら絡まれてるんかもしれん」
「げ、もしかしてあいつら?」
「かも。ちょっと見て来る」
ワリィ、と言って翔平はキッチンの方へ向かって、俺は角を曲がったところで立ち止まり、溜息を吐いた。
やっぱり。
莉奈が通路に立って座敷席の中を覗き込みながら、背中を丸めて困ったような顔でオロオロしている。
「酔っ払いだからって俺たちの事信用してないんでしょ?ほんとに一目惚れしちゃったんだって!今度おじちゃんと一緒に湘南の海をドライブしない?」
「あ、あの、すみません、そういうのはちょっと」
「もしかして彼氏に悪いとか思ってんの〜?照れちゃって可愛い!大丈夫だよー、こっそり行けばバレねーよ」
「すみません、困ります」
「この後空いてる?バイト終わったら三人で俺の家行って飲まない?リナちゃん、実家暮らし?」
「あ、えっと、違」
「高宮さん」
横から呼び掛けると、莉奈は涙目でこちらを向き、安堵の表情を浮かべた。
莉奈の二の腕あたりを掴んでこちらに引き寄せて、耳元で小声で話し掛けた。
「ここはええから、あっち行っとき」
「あっ、ありがとうございますっ」
莉奈はペコッとお辞儀をして小走りでその場を去って行った。
二人はあからさまに機嫌を悪くする。
「ちょっと!可愛いリナちゃん連れてかないでよ〜関西チビ!まだ話してる途中でしょーがっ!」
関西チビと勝手に呼ばれているのは前から知っている。
この二人、いっそのこと出禁にしたい。
俺は冷静を装ってハンディを取り出した。
「ご注文お伺い致します」
「リナちゃん一つ追加」
俺はより一層笑顔になった。
帰れ。
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