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第198話
「すみません。そちらのメニュー表からお選び下さい」
「んじゃカラオケ。なんでこの店無いの?早く付けろって言ってんだろ?俺ら今すぐ歌いたいんだけど」
「はあ」
どうしたものか、と解決策を探っていたらポンと肩を叩かれた。
「すいませーん!店長、カラオケすげー音痴で、一生つける予定無いって言ってて!俺は好きですよ!この後歌いに行っちゃおうかなー!」
翔平が俺の肩をぐっと押しやった。
目が合うとニヤッとされたから、俺は嬉しくなった。
翔平さま……!
俺の代わりに対応をしてくれるらしい。
「おー金髪くん。髪真っ黒になってんじゃん!お前いつから真面目くんになったんだよ!」
「へへー、俺だって就活頑張ってるんすよー」
翔平、ありがとう…と心の中で崇拝して、俺はその場を離れた。
こういう時、翔平の方があしらい方が上手だ。
いつもの適当さがここぞとばかりに発揮される。
酔っ払い相手とまともな会話なんて成り立つはず無いんだから。
元いた場所に戻ると、莉奈がこちらに寄ってきた。
「北村さん、ありがとうございましたっ」
「あぁ、いやいや。酔っ払い相手に、真面目に対応せんでええんよ?適当に交わしとかんと。実家暮らしかって聞かれてホンマの事答えたりして、バイト終わりに後でもつけられたらどないするん?」
「そうですよね。お客様だから失礼の無いようにと思ったんですけど、気をつけます!ありがとうございます!」
「うん。もし今後そういうので困ったら一旦席外して、翔平とか呼んだらええよ。適当に相手してくれるから」
「分かりましたー。さっき、北村さん来てくれて、本当にホッとしましたー。正義のヒーローが来てくれた!って感じで。すっごくカッコよかったです!」
「え? そ、そう?」
少しニヤッとする。
ハッ。
舞い上がってしまった。
カッコいいなんてなかなか言われる事じゃ無いから、調子に乗ってしまった。
きっとこんな姿を景に見られたら、またニヤニヤして…と目を細めて怒られるに違いない。
「あの二人のとこには翔平に行かせるから。あ、高宮さん、あそこのテーブル、帰り支度しとるからお会計お願い」
「はーい」
莉奈は笑顔で向かっていった。
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