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第199話
バイト上がりに一応店長に報告したら、今後あの二人には莉奈をはじめ女の子は近づけないようにする事になった。
出禁にしたいところだけど、物を壊したり、人に危害を加えたりするところまでは行っていないから何とも言えないらしい。
翔平にはあの後散々愚痴を聞かされた。それでも気が済まなかったようで、さとみちゃんに癒してもらいに行くと言って帰って行った。
俺と莉奈はバイトを終えて、また待っていた訳では無いけど一緒のタイミングで店を出た。
「じゃあ北村さん、今日は色々とありがとうございました。お疲れ様でした」
「うん。じゃあ高宮さん、暗いから気をつけて帰るんよ?また明日」
「ふふっ。北村さんって優しいんですね!ではまたー」
莉奈は無邪気に笑って手を振って帰って行った。
姿が見えなくなったのを確認した俺は、すぐにポケットからスマホを取り出す。
早く連絡したくてウズウズしていた。
さっき確認したら、景からの着信があったから。
駐車場側の店の壁に寄りかかって景の番号に電話を掛けると、すぐに出てくれた。
『もしもし。もう終わった?』
二ヘラ、と顔の筋肉が緩んでしまう。
あぁっ。癒される!その低音ボイス。
あんな男どもに関西チビと呼ばれようが、どうでもいい。だって俺には景がいる。
男達に無理難題を押し付けられても、今ならなんだってこなせそう。
「うん、今終わったー。景は?」
『僕も終わり。今車の中。マネージャーに運転してもらってる』
「へぇーそうなんや。家まで送ってもらえるん?」
『うん。これからもう一人合流して、ご飯食べに行こうかと思って……あ、女優さんじゃないからね?』
「は?べ、別にっ、気にしとらんしっ」
でも本当はちょっと気になった。
景っていろんな女優さんと仲良いし。
景は自分で嫉妬深いって言っていたけど、俺だって負けてないと思う。
藤澤 景はそんじょそこらの一般人とは訳が違うんだから。
景は、付き合う前からもそうだったけど、合間を縫って俺に電話してきてくれる。
付き合い始めてからの方がそれは多くなったと思う。
仕事で忙しいだろうに、それがたまらなく嬉しい。
この間初めてのエッチをしてから、ますます景の事が好きになってしまったと思う。
ずっと会話していたかったけど、景がもうすぐお店に着くと言うので、電話を切る事になった。
「じゃあ……あ、景っ!あの……好き……やで」
『……うん。僕も。じゃあまたね』
ギャーっ!
俺は乙女かっ。
ボタンを押して、顔を手で仰いだ。
やばい。電話しかしていないのに、なんでこんなに身体が熱くなってるんだ。
やっぱり景の声は魔法の力を持っていると思う。
彼が発するだけで、空気感がまるで変わる。
人を惹きつけるって、こういう事を言うんだろうなぁ。
景と会えるのはまだ先だけど……それを楽しみに頑張ろう。
よし、とスマホをポケットに入れ、ふと視線を上げた時。
店の入り口の前で佇む人と目が合った。
「……」
「……」
莉奈だった。
お互い無言。
俺は目が点状態で、莉奈はというと、口角は思い切り上がって目は煌めいて笑いが込み上げているという表情だった。
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