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第202話

聞かれてた。 絶対聞かれてた。 いつもは、あんな風に好きとか電話で言わないのに、何故今日に限って言ってしまったのか。 しかも、バイト先の店の前で。 誰かに聞かれてるなんて予想もしていなかった。 (バレた……俺が景と付き合ってるって事……) 景の名前を出していたし、きっと気付かれた。 馬鹿にされる?それとも軽蔑される? 何て言われるのか恐怖におののいていると、俺の予想とは違って、莉奈は胸の前で手を合わせて無邪気に笑った。 「北村さんっ!彼女さん、ケイさんって言うんですか?北村さんって、ちゃんと言葉にして伝える人なんですね!すごーく好きなんだなぁっていうのが伝わってきましたー!」 「え?!あぁ……」 彼女? あ、そうか。ケイ、って男女どっちでもいる名前だからか。 莉奈の態度にホッと胸を撫で下ろす。 良かった、景だってバレなくて。 というか、言っても信じられないか。今電話していた相手は藤澤 景だなんて。 「な、なんでおるんよ……さっき帰ったんやなかった?」 「シフト提出するの忘れてて。途中で引き返して来たんです。そしたらあんな風に言ってるですもん。キュンとしちゃいました」 「……」 「あっ、すみません、盗み聞きじゃないんです!一応挨拶だけしようかとタイミング見計らってたんですけど、北村さん全然気付かなくて!最後だけしか聞こえなかったので安心して下さい」 いや、最後だけ聞かれたのが問題なんだ。 よし、もうこれ以上何か言われる前に早く帰ろう。 「あ、じゃあ、たかま、高宮さんっ、また明日」 狼狽して噛んでしまうと、莉奈にフフッと子供のように笑われた。 「やっぱり、高宮って言いにくいですよね。北村さんもいいですよ?わたしの事、莉奈って呼んでも?あ、彼女さんそういうの気にするタイプですか?」 「え、いや、どうやろ……多分大丈夫やと思うけど……」 斜め下を向いて少し考えてみた。 正直、莉奈、の二文字の方が呼びやすい気がする。 景は何て言うか分からないけど……俺が女の子に興味無いの分かってるし、このくらいは普通だよね? 「うん。じゃあ、莉奈でええかな?」 「はい、是非。じゃあ明日、北村さんが彼女さんとラブラブな電話してたって、矢口さんに言っておきますね!お疲れ様でした〜」 「ちょっ、お願いやからっ、言わんといて!」 「ふふ、冗談ですよ。ではまたー」 莉奈は今度こそ帰って行った。 ふぅ、と一息ついて、俺もアパートの方へ歩き出す。 (女の子って、なんだかキャピキャピしてんねんなぁ……) 男子校だったし、今は大学のゼミくらいでしか同世代の女子と話さない俺にとっては、子供のような莉奈の存在はすごく新鮮だった。

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