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第238話
桜理さんは驚きを通り越して、薄ら笑いを浮かべていた。
「うわー、すげぇウケる。お前、どっちもいけるやつだったんだ?」
「そうみたい。でも、修介は特別だよ。それまで男が好きだなんて思った事も無いし」
猛さんも興味深々といった様子ですかさず突っ込む。
「へぇー!てゆーかよく紹介しようと思ったね!俺達に軽蔑されるかもとか思わなかったの?」
「思わない。別に悪い事してる訳じゃないし、お前達の事だから軽蔑なんてしないって思ったし」
景は淡々と答えた。
猛さんと桜理さんは顔を見合わせてからプッと吹き出して笑い合うと、俺に向けてグラスを掲げた。
「うん。まぁあれだ。チンチクリンだけど、許すぜ」
「えっ、ゆ、許すって?」
「俺も。修介だったら景ちゃんも惚れちゃうのもしょうがないかなって思ってきたー。修介、景ちゃんと仲良くやんなよー」
「あ、ありがとうございます……」
祝福の言葉を俺達に向けてくれた。
景はこうなるって分かってたのかな。全く動じずに笑いながらお酒を飲んでいる。
嬉しかった。
景の大切な人達が俺を認めてくれて。
硬かった顔の筋肉が少しずつ解れてきた。
俺と景が同い年だっていう事を猛さんは凄く驚いていた。正直未成年だと思ったらしい。
というか、俺の方が一個上なのにいきなりタメ口で話しちゃうなんて……。
まぁ、別に悪い気はしてないし、相手は芸能人だからいいんだけど。
初めて言葉を交わした時の態度が嘘のように、イメージ通りの無邪気で活発な猛さんだったからすごく安心して、俺も饒舌になり、猛さんの演技を絶賛するとまた笑ってくれた。
「タケでいいよ!」と言ってくれたけど、いきなりは無理だからタケさんと呼ぶ事にした。
目の色が綺麗で鼻が高い桜理さんは、俺の事をしばらくチンチクリンと呼んでいたけど、途中からはちゃんと修介、と呼んでくれた。
タケさんと桜理さんが話に夢中になっていた時、静かに俺達のやり取りを聞いていた景の肘がふと体に当たったから横を向くと、景は嬉しそうに微笑んでいた。
「二人の事、気に入った?」
「うん。最初はちょっと不安やったけど、来て良かった。ありがとう」
景と見つめ合っているのを目撃されて、惚気るなだのいろいろと突っ込まれて、それでまた笑った。
タケさんと桜理さんと番号交換もした。
タケさんは酔って気分がよくなっているのか、通りすがりの女性に声をかけて席を立つ。
景と桜理さんも、ずっと話してみたいと思っていた俳優さんが来ていたのに気付いたらしく、その後すぐに席を立った。
俺は一人、お酒を飲みながらその場で待つことにした。
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