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第242話

「あの、それ」 「ん? あぁ、これ、君の?」 「はい、そうです」 「そう。誰かの忘れ物かと……」 目が合ったその瞬間、何故か懐かしい気持ちになった。 ん?懐かしい?なんでだろう? あ、なんか知ってるような気がする、この人……確か何年か前に何かのドラマに出ていたような…… 「今、こいつ誰だっけって思っただろ?」 「えっ!い、いえっ思ってません!」 急に指摘され、俺はブンブンと手を横に振った。 危うく声に出していたのかと慌ててしまった。 その人はフンと鼻で笑って、俺の方に近づいてくる。 「いいよいいよ。俺、あの人は今状態だからさ。ほとんどテレビでは活躍してねぇし。朝井 綾斗(あさい あやと)。これを機に覚えて帰ってよ。新人ちゃん」 「あ、いえ、俺は極普通の一般人で……」 そうだ。この人は、朝井 綾斗。歳は確か20代後半。 高視聴率を叩き出した学園ドラマに不良生徒役で出演して、その演技力が絶賛されてその後ドラマ初主演を果たしたけれど、そのドラマは脚本が悪かったのか、それともたまたまウケが悪かったのか、あまりの低視聴率ぶりに打ち切りになったのが記憶に新しい。 朝井さんの顔は当たり前だけど綺麗に整っている。 サラリとした茶髪に、尖った顎。そして切れ長の目。 背は景ほどは高く無いけど、やっぱりチビの俺は見上げてしまう。 「え?そうなんだ。ごめん、てっきり俳優かなんかかと。誰かのツレ?」 「あ、えっと、藤澤 景の……」 「藤澤 景?」 朝井さんはピクリと片眉を上げて顔を険しくさせた。 その瞬間、嫌な汗が出た。 まずい。もしかして、この事は内緒にしておいた方が良かったのかな? 景には何も言われなかったけど……大丈夫だよね?付き合ってるって事さえ言わなければ。 あぁ、アホな俺の事だから、なんだかやらかしてしまいそう。 そう予感したから、俺はこの場を早く立ち去ろうと決意する。 「あ、指輪、ありがとうございました」 笑って手を伸ばすと、朝井さんはその右手を俺の手が届かない所まで宙に高く上げてしまった。 突然の行動で目が点になっていると、朝井さんはニンマリとして一言呟いた。 「なんで藤澤の指輪を君が持ってんの?」

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