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第243話

「……へっ?」 朝井さんはまたフフッと笑って、指輪をチラつかせた。 「どっかで見たことあるなと思ってたんだよね。そっか、今思い出したよ。あいつと何回か打ち上げとかで一緒になった事あって、その時にこれしてたなーって。で?なんで君が持ってんの?」 「……」 どうしよう。 もしかして、なんか勘付いた? いや、大丈夫。さっき南さんに言ったみたいに、普通に事実を伝えればいい。貰ったって言えばいいんだ。 少し手が震えながらも、何でも無いフリをして口の端を上げた。 「景が、あげるって言ってくれたんで、貰いました」 「へぇ。あいつの恋人だから?」 「えっ」 動揺した声が漏れてしまい、慌てて両手で口を押さえた。 すると朝井さんは目を見開いた後にプッと吹き出して、豪快に笑い出す。 「マジで?ハハ。超ウケる。ボケたつもりだったのにマジなの?顔真っ赤じゃん」 「ち、違います!そんなんじゃないです!」 まずい!まずい! もし景と付き合ってるなんてバレたら、景に迷惑がかかる。 俺は必死になってかぶりを振って否定し続けたけど、朝井さんはもう完全に気付いてしまったようだった。 「へぇ。南と別れたのは知ってたけど、まさか今度の相手は男だなんてね。しかもこんなにおチビで可愛い……」 朝井さんは左手を伸ばして、指先をおれの顎に添えて持ち上げた。 「人気No. 1俳優の藤澤も俺と同じ性癖の持ち主だったなんて光栄だよ」 「……同じ?」 「俺の秘密教えてあげる。俺、ゲイなんだ」 「えっ……」 ぽかんと口を開けてしまった。 や、やばい。この人、目が逝ってる(気がする)。 ゲイだって?嫌な予感しかしない。 あぁ、神様。いや、景。タケさん、桜理さん。お願いだから助けて。 「俺は別に公にしたっていいんだけどさ、事務所的にNGらしいんだよ。息が詰まるよなぁ。本当の事隠して生きていかなくちゃならないなんてさ」 「そ、そうですか……」 朝井さんはますます指に力を込めるから、俺は朝井さんの腕を掴んで懇願した。 「あの……お願いです……景との事は、誰にも……」 「うん。大丈夫。俺口堅いから誰にも言わないよ。その代わり」 朝井さんは俺から手を離すと、持っていた指輪を自分の左手の小指にはめてしまった。 またぽかんと口を丸くしていると、朝井さんは「お、綺麗」とそれを見て呟いてから、不敵な笑みを浮かべた。 「今度俺とデートしてよ。そしたら指輪返してあげる」 「えっ?」 「なんか、君の事気に入った。安心してよ。デートしてくれたらちゃーんと返してあげるから。もちろん藤澤には内緒ね。もしチクったら二人の事、世間中にバラしちゃうから」 「そ、そんなっ!」 俺は涙目になった。 これって脅し? この場に指輪をしてきてしまった事を激しく後悔した。 「スマホ持ってる?俺の電話番号言うからメモして」 俺は訳が分からぬまま、言われるがままに電話帳を開いて、朝井さんの電話番号を登録した。 「じゃあ、明日、何時でもいいから電話して?詳しい事はおいおい。あ、君の名前聞いてなかったね?」 「北村、修介……です」 「じゃあ、修介くん。またね」 朝井さんは手をヒラヒラとさせてその場を後にした。 残された俺はただただ呆然と立ち尽くす。 な、何、今の。 あっという間の出来事で訳が分からない。 とりあえず、物凄く面倒なことになったという事だけは分かる。 (あぁー!どないしよー!) 俺はその場で一人頭を抱えた。

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