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第246話 side景
朝井さんは僕に尋ねる。
「お友達、帰っちゃったの?」
「え?」
「さっき一緒に歩いてたじゃん。小柄な男の子」
「あぁ、帰りました。具合が悪くなってしまったみたいで」
「へぇ、そう」
朝井さんはたいして興味も無さそうに返事をして自分のグラスを傾けている。
僕は不快感を顔に出さないように演技をした。
「朝井さんは、飲んでますか?」
「おー、飲んでるよ、ヤケ酒。最近調子悪くってさ。お前は絶好調らしいな? 映画二本、決まったんだろ?」
「……ええ」
「最近バラエティーも慣れてきたみたいだし、流石ブレイクナンバーワン俳優は違うよな?」
「……」
誤魔化すように無言で酒を飲む。
悪い人じゃないけれど、やっぱり苦手だなぁ、この人。
「で、お前、今彼女はいるの?」
唐突な質問に、一瞬思考が停止した。
朝井さんがそんな事を訊いてくるだなんて、初めてだ。
「ふふ、僕のプライベートの事なんか聞いても、何も面白くないですよ?」
「南とさっき話してたみたいじゃん。元さやしたの?」
早く何処かに行って欲しい。
それかタケ、早く戻ってこい。
そう切に願いながらまた笑って、首を横に振った。
「……彼女は、ただの友達ですよ」
「へぇ、そうなのか。ま、もし新しい恋人がいるんだったら、ちゃーんと捕まえとけよ。悪い虫がつかないようにさ」
「……」
朝井さんは微笑んだ後、机の下に視線を落とした。
何を見ている?腕時計か?
どういう事だろう。
何故そんな事を言ってくるんだ?
うまく頭が回らないでいると、タイミング良くタケが戻って来てくれた。
「朝井さんっ!あっちでみんなと一緒に写真撮ってくださいよー」
「おお、いいよ」
朝井さんは酔ったタケに強引に腕を掴まれて、向こうの方へ行ってしまった。
助かった、と一安心したのも束の間、やはり胸の奥に突っかかる物があった。
けれどそれっきり、朝井さんと会話する事も無かったから、このパーティが終わる頃には違和感もすっかり消えていた。
家に帰る途中、修介に電話を掛けてみたけれど一向に出なかった。
とっくに家に着いている頃だし、もしかして吐いているのかと心配になったけれど、しばらくしてからメッセージが入ったから一安心した。
彼と会うにはまた暫く間があきそうだ。
それまで寂しいけれど、仕事に専念しよう。
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