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第247話
翌朝、ほとんど熟睡出来ずに目覚めた俺は、早速朝井さんの番号に電話を掛けた。
朝井さんは眠そうな声で電話に出た。
『……はーい、誰ー?』
「もしもし!北村です!指輪、返してもらえますかっ?」
開口一番そう言うと、朝井さんは昨日のように盛大に笑い出した。
『何だよ。いつでもいいから電話しろとは言ったけど、朝イチで掛けてくる事ねぇだろ。こっちは三次会まで行って、ほとんど寝てねぇんだぜ?』
朝井さんの迷惑そうな言い方にイラッと来る。
そんなの知ったこっちゃない。
大事な指輪を取られておいて、穏やかになんかしていられない。
「あの、指輪いつ返して貰えますか?」
『まぁそう焦んなって。そうだなぁ、空いてる日はいつ?』
朝井さんは呑気に話し始めるから、またイラッとする。
俺が大学四年生だって事に驚いていた。
朝井さんも、俺の事を未成年だと思っていたらしい。
話し合った結果、朝井さんが都合のよい二日後の夕方に会う事になった。
『藤澤には言ってないよな?』
「言ってませんよ!言えるわけないじゃないですかっ!」
『……るせぇなぁ、朝からそんなキンキン声出すんじゃねぇよ。頭に響くだろうが!』
「す、すみません」
うう、何故俺が謝る必要があるんだ?
明らかにいろいろとそっちが悪いのに……。
俺は今一度朝井さんに確認を取った。
「あの、デートって、何するんですか?」
『それは来てからのお楽しみ。じゃあまた明後日ね、修介くん』
そのまま、一方的に電話を切られてしまった。
二日も不安な思いをしなくちゃならないなんて…と絶望的な気分になったけど、二日後に約束の場所に行けばちゃんと返してくれるって言っていたし。
そうだ。その場所に行ってすぐに指輪を返してもらって、デートなんてする前にダッシュで逃げればいいんだ。
大丈夫。明後日には何もかも解決している。
変な自信をつけている最中、握っていたスマホが震え出した。
「うわぁ〜、景や……」
いつもだったら嬉しくて飛び付いて出るはずだけど、今はなかなかボタンを押せない。
大丈夫、冷静に、と深呼吸をしてから、意を決して画面をタップする。
「も、もしもし」
『あ、おはよう修介。ごめんね朝から。どう?体調は大丈夫?』
「あっ、うん。もう大丈夫。ぐっすり寝たら良くなったから」
『あぁそう。それなら安心した。昨日、来てくれてありがとね。タケも桜理も、修介とまた会いたいって言ってたから、また今度ゆっくり飲もうよ』
「あ、あぁ、そうやな!」
景は俺の変なテンションに笑っていた。
指輪の事を聞かれたらどうしようと内心焦っていて気が気じゃなかったけど、幸い聞かれる事は無かった。
会話が途切れてから、さっき決意した事を話した。
今週、連絡を控えてくれ、と頼んだのだ。
大学の課題で忙しいと伝えたけど、本当の理由はもちろん、指輪の事でボロを出さない為。
景は疑いもせずに、その案をすんなり受け入れてくれた。
『本当に大変だね。お疲れ様。あんまり無理しないでね?じゃあ、また週末にでも時間見つけて連絡するから、体に気を付けてね?』
「うん。ありがと!じゃあまたね!」
電話を切ってから、ホッと胸を撫で下ろした。
あの朝井って人、なんなんだ。
本当に俺の事が気に入ったからデートしようって言ってるのか?
口は堅いって言ってたけど、信用していいのだろうか。
とにかく、景にこの事がバレないように、早く明後日が来てくれと祈るばかりだった。
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