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第250話 side桜理
今日の収録はやたらと押した。
ったく。スタッフの段取りも悪かったし。
お陰でこっちは愛想笑いばっかり浮かべて疲れちまったじゃねぇか。
そうやって喫煙所で気の知れた俳優や芸人達と愚痴を言い合っていた。
エリは今頃向かいのカフェに来ている筈だ。これからデートをする予定になっている。
すぐ迎えに行ってやらなくちゃならないのに、ついつい気の合う友達がいるとこうやって話に花を咲かせてしまう。
さて、そろそろ向かうとするか、と仲間達に挨拶をし、建物の外に出たところで俺は目を見開いた。
エリが、すぐそこのベンチで座って待っていたからだ。
エリはニコッと微笑むと、組んでいた脚を直してコツコツとヒールを鳴らしてこちらに近づいて来た。
「桜理〜?また共演者とペチャクチャお喋りしてたんでしょう?待たされるこっちの身にもなってよね?」
「いててて!」
俺は思い切り頬を抓られる。
爪が!魔女のように鋭くて長い爪が肌に食い込んで痛い!
「もうっ待ちくたびれちゃたわよ!今日のディナーは奢りね?」
「はいはい、お姫様」
ようやく手を離してくれたけど、くっきり跡が残った。
結局、エリはこれだけで許してくれたらしい。
なんだかんだで、優しいんだよな。
こんな好き勝手にやる俺にあまり口出ししないから、一緒にいて楽なんだ。
俺たちはタクシーに乗り込み、銀座まで足を伸ばす事にした。
エリは月刊女性ファッション誌の専属モデルで、身長は176センチもある。
景の元カノの南とは同期だから、たまに遊んだりしているらしい。
景が南と付き合ってた頃は四人で遊んだ事もあったけど、それはもう無理な話だな。
エリが言うには、南は景の事をまだ引きずっているらしい。
景には新恋人がいて、しかもその相手は男なんだなんて南が知ったらどうなるのか……怖くて想像もしたくない。
別れる時、景、相当苦労したからな。
エリには景に恋人がいると言ってもいいかと思うけど、ふとした拍子で南にバレたら厄介だし、やっぱり隠しておいた方がいいか、と逡巡していると、エリは窓の外のカフェを指差した。
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