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第251話 side桜理

「あたしさ、さっき見たんだよね。ここで朝井さんと男の子がレジで言い争ってるところ」 「は?朝井が?」 朝井とは正直あんまり話した事は無い。というか偉そうな態度が気にくわないから、影では呼び捨てにしている。 エリは運転手に盗み聞きされるのを恐れるように声を潜めて、こちらに顔を寄せた。 「ねぇ、朝井さんの噂って知ってる?」 噂って、朝井がゲイだって事か。俺は溜息を吐く。 「そんなん有名じゃねぇか。この界隈で知らねー奴はいねーだろ」 「あ、なーんだ。有名なんだこの話。つまんないの。でさ、さっき言い争ってたの、なんだかワケありって感じでさ!何話してるのかは分からなかったけど、ツレの男の子は、困ります、とか言ってたから、どっちが支払うかで揉めてたみたい。その後は仲直りしたみたいで並んで外出てったんだよ」 「へぇ。すげー興味ねぇわ」 「もうっなんでよっ!女同士だったら超盛り上がるのに! 朝井さんって、見かけによらずあんな子がタイプなんだなぁと思って。もっとガチムチ系かと勝手に想像してた。可愛い感じの子だよ。ちょっと訛り入ってて」 「へぇ。茨城訛りか?」 「私が実家帰ると茨城訛りすごいからって馬鹿にしないでよ!じゃなくてあれはきっと関西弁かな?可愛い顔によく似合ってたよ」 関西弁で、可愛い顔の男? そんなの、景の愛しのチンチクリンしか思い浮かばないけど、朝井とこんな場所にいる訳が無いし。 「ま、人は見かけによらねーって事だよな。タケだってあんな清純そうな顔しながらすげー遊んでるし」 「タケちゃんは見るからに遊んでそうじゃん!」 あぁ、それより腹減ったな。 はしゃぐエリに適当に相槌を打ちながら、窓の外の流れる景色を目で追った。

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