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第252話

* * * 「あの、朝井さん」 「何?」 「なんで、水族館?」 「だって、デートといえば水族館じゃん。それに俺、好きなんだよね、エイ」 「はぁ……」 朝井さんの車に乗り込んで何処に連れて行かれるかと思っていたら、わりとすぐ近くの都内の水族館だった。 入場券も買ってくれて、今何故か俺たちは大きな水槽の前にいる。 怪しいビルやホテルじゃないだけ随分とマシだけど、何で彼氏でも無い人とデートスポットに来なくちゃならないんだ。 まぁでも、こうやって青い水の中を縦横無尽に泳ぐ生き物達をじっくり眺めていると、頭の中がスッキリするというか、見ていて癒されるというか。 ぼーっと眺めていると、朝井さんは得意気に話し始めた。 「知ってた?エイの裏っかわにある顔みたいに見えるあれ、目じゃなくて鼻なんだぜ」 「えっ!そうなんですか?目は何処に?」 「表がわに付いてんだよ。呑気な顔してるよな。お前みたいに」 「へぇー、あれ鼻だったんだ……って、俺、あんな変な顔してます?」 そっくりだな、と無邪気に笑う朝井さんの横顔を盗み見る。 朝井さんは俺の事をいつのまにか君、からお前と呼び方を変えた。 馴れ馴れしいなとも思ったけど、芸能人だからしょうがないか、と変に納得をした。 未だに、朝井さんの何が目的なのか分からない。 車の中では世間話ばっかりで、肝心な事になると話題を変えてはぐらかす。 俺とこんな事をして楽しいのだろうか? それとも、ただ単にデート、というものがしたかっただけ? こんなに格好いいんだから彼氏の一人や二人いそうなものだけど…… もしかしたら振られたばっかりで、慰めてほしいとか? あ、もしかして、性格が悪いのが広まってしまって友達さえもいなくて、ずっと独りぼっちだとか?あぁ、それだったら可哀想だな…… 「おい、なんだよ。その人を羨むような眼。カッコよくて見とれちゃった?」 「え?」 「藤澤に言いふらすぞ。俺の事そういう目で見てるって」 「なっ……そんな目で見てません!」 朝井さんはクスクスと笑う。どこをどう取ったらそうなるのか。 芸能人ってやっぱり変わってる。というか朝井さんがおかしいんだ、こんなところまで連れてきて。いや、その前に素直についてきてる俺もおかしいか。 やめやめ。もうこれ以上この人に付き合うのはやめよう。 「あの、朝井さ……」 「よし、次はクラゲ見に行こうぜ!もうすぐ館内が青い照明に切り替わる時間だ。絶対綺麗だぜ!」 「あっ……ええっ?」 朝井さんは俺の手を引っ張り走り出してしまった。 そしてクラゲを見る羽目に。 うう、何故だ。 早く指輪を貰って安心したいのに。 連れまわす朝井さんに翻弄されながら、結局館内を見て回ったのだった。

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