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第253話 sideタケ

仕事を終えた俺は、マネージャーの運転する車で銀座にいた。 そのまま家に帰ってもいいけれど、折角だから誰か誘って飲みにでも行こうかな。 後部座席で脚を組んでスマホを取り出した。 電話帳から桜理の名を探して電話を掛けた。 『もしもーし』 「あ、お疲れ。今日暇ー?」 『暇じゃねえ。エリといる。今銀座』 「あ、そうなんだー。もしかしていつもの店? 俺も今銀座にいるんだよ。混ざっちゃおっかなー」 『あぁ、いつもの店だけど、マジかよ……エリは別にいいって言ってるけど』 「ほんと? じゃあ気が向いたら行くねー」 『てめーそれは絶対来ねぇパターンだろ!ま、どっちでもいいけどよ。じゃあな』 「はーい」 電話を切ってからどうしようかなと考える。 最近気に入って通っている店に二人はいるらしい。 桜理とエリさんとは会ったばっかりだからな。 そんなに話すこともないしな、と思いながら画面の上を指でなぞっていると、マネージャーが声を掛けてきた。 「そういえば猛の写真、ニュースに出てたね。見た?パーティの時の」 「えっマジ?見てない!」 さっそく探してみると、俺がインスタに載せた写真がそのまま出ていた。 インスタを始めてから、何度かこうやってエンタメニュースに出る事がある。 ニュースに出るとお気に入りの数もフォロワー数もどんどん増えるし、なんだか嬉しいんだよな。 ニヤニヤと画面を覗き込みながら、インスタを開いて今まで投稿した写真を見返した。 確かこうやって写真が取り上げられたのは四回目。最近だと、先月桜理と景ちゃんと三人で撮った時の写真だ。 「あ、これだ」 そして俺はここで気付いたんだ。 ずっと喉に引っかかっていたつっかえが取れた。 写真の景ちゃんはグラスを掲げてこちらに笑顔を振りまいている。 そしてその小指には、赤い石が埋め込まれた指輪が嵌められていた。 「あーーーーッ!」 「なっ、何!?」 「あ、ご、ごめん、何でもない」 俺は次にフォトブックを開いて、大量にあるパーティの写真の一つをタップして拡大した。 やっぱり。 朝井さんのしている指輪、どこからどう見ても景ちゃんの指輪だった。 いつだったか、これはオーダーメイドだと言っていた。 それに、この赤い石はルビーだということも。 ハルカの言葉が脳裏に響く。 〔ルビーは七月の誕生石だよ〕 景ちゃんは七月生まれだ。朝井さんは二月。誕生日をお祝いしたばっかりだ。 景ちゃんが朝井さんにあげたなんて考えられない。 景ちゃんは彼が苦手だと言っていた。 朝井さん、もしかして景ちゃんの指輪盗んだのか? 俺は景ちゃんの番号をタップして、耳にスマホを押し当てた。 『もしも……』 「景ちゃん!ちょっと見てほしいのがあるんだけど!今何処?」 景ちゃんが出た途端、俺はすぐに叫んでいた。 『何いきなり。今家にいるけど』 「よし、すぐ出てきて。大事な話あっから。銀座のいつもの店に桜理とエリさんといっから!」 『え、何で。僕お酒飲んじゃったし』 「タクシー使えってんだよ!とにかく大事な話だから、待ってるかんね!」 そう言って、一方的に電話を切った。 こうすればきっと何事かとすっ飛んで来てくれるだろう。 マネージャーに行き先を伝えて、もう一度写真の中の朝井さんの小指に嵌められた指輪を眺めていた。

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